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明君のお母さんと僕
第3章 昆虫図鑑
「ねえ、善三郎君?」
 明君のお母さんに呼びかけてきた。
「大丈夫? すごく難しそうな顔をしているけど」
「う、うん」
「ほんとに? 具合は悪くない?」
「うん」
 僕は取り繕うような返事も出来なくなっていた。オチ〇チンがウズウズして仕方ない。椅子の上でお尻を少し動かすだけでも気持ち良いけど、余計にじれったい気持ちにもなる。いますぐに手で摩擦してラクになりたい。そう、あの時、この家のトイレでオナニーをしてしまった時のように。だから僕は、またトイレを借りようかと本気で考えた。
「……」
 明君のお母さんが急に何も言わなくなった。さっきまで僕の様子を心配していたのに、いつの間にか黙ってしまっていた。そのことに僕はようやく気づいて、明君のお母さんを見た。
 明君のお母さんは少し首をかしげて、僕の目を見つめ返してきた。そして、「善三郎君、オバサンの勘違いだったら、それでいいんだけど」と前置きするように言ってきた。僕は何を言われるのだろうと、不安になった。
「あのね、ほら……善三郎君ぐらいの年頃の男の子って、あるじゃない。その、なんていうの? 女の子の体に興味が出てくる頃だし、いろいろと、なんかその、溜まるとか……ごめんね、オバサンの勘違いだったら、ホントにごめんね。でも、なんか、ほら……」
 僕は自分の今の状態を言い当てられたことよりも、明君のお母さんがしどろもどろになっていることに何よりも驚いていた。僕の思い過ごしかもしれないけど、その瞬間、明君のお母さんの体からシャンプーの残り香とも違う、甘ったるい匂いがツンと鼻に入ってきた。
 僕は顔が真っ赤になった。ただでさえ赤面症だから、耳たぶまで熱くなって、冷房がしっかりと効いている部屋なのに、顔中の毛穴から大量の汗がぶわっと溢れてきた。 
 僕のあまりにも分かりやすい反応を見て、明君のお母さんは察知したのだろうか。今度は少し落ち着きを取り戻した口調で、
「もし、そうだったら気にしなくていいのよ。それは変なことじゃなくて、当たり前のことなんだし。普通の男の子だったら、当たり前のことだと思うの。だって、明も……」
 明君の名前が出てきて、僕は思わず、「明君も?」と聞き返していた。
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