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明君のお母さんと僕
第8章 包丁
「明が死んだ時も、シャワー浴びていたんだよな」
そうだった。僕が初めてこの家を訪れた時のことだ。
「ごめんなさい」
明君のお母さんは壊れた玩具のように、同じ言葉を繰り返す。
「ちっ」
また舌打ちだ。
「お前のせいだよ。やっぱり、どう考えても。ちっ」
「ごめんなさい……」
「暢気にシャワーか。ちっ」
「ごめんなさい」
「謝ったら済むと思ってんの?」
「……思っていません。ごめんなさい」
「思っているだろ。誤魔化すなよ。ちっ」
「……」
「お前が殺したようなもんだよな」
「はい……」
もういい加減にしろ。自分のストレスなのか、罪の意識をなすりつけたいのか知らないけど、なぜにそこまで人をネチネチと意地悪な言葉を浴びせて、精神的に追い詰められるのだ。
「おい!」
一度怒りに火が付くと、どんどん自分の中で盛り上がって激高をする。
それって、うまくいかない自分のサラリーマン人生に対する苛立ちを、自分よりも立場の弱い人間に八つ当たりしているだけではないですか?
ずっと思っていることを僕が心の中で主張した時だ。
ドカッと鈍い音がした。的を得た指摘をされると、こういう人はすぐに暴力に走る。
「うぐぅう」
僕が今まで聞いたことのない明君のお母さんのうめき声が聞こえてくる。
どこを蹴られたのか分からないけど、僕はお腹のあたりを蹴られたと想像していた。
明君のお母さんはいまお腹を押さえて苦しんでいるに違いない。
もうだめだ。許せない。殺してやる。
僕の中で得体のしれない化け物がカッと目を見開いて目覚めたようだった。
自分でもわかっている。明君のお父さんの言動は、僕の父親そのものではないか。
そして明君のお母さんは僕そのものだ。
僕は明君のお母さんを助けたい。それは僕自身を助けることでもあるのだ。
悔しさや悲しみを堪えようと強く唇を噛んでも、体の震えは止まらない。
唇から血の味がした。
血を舐めながら、僕は目を閉じる。
リビングの光景をいま一度、思い出す。
テーブル、椅子、テレビ、掛け時計、扇風機……西瓜。
フラッシュバックしたのは、西瓜だ。
西瓜。切る。包丁。
そうだった。僕が初めてこの家を訪れた時のことだ。
「ごめんなさい」
明君のお母さんは壊れた玩具のように、同じ言葉を繰り返す。
「ちっ」
また舌打ちだ。
「お前のせいだよ。やっぱり、どう考えても。ちっ」
「ごめんなさい……」
「暢気にシャワーか。ちっ」
「ごめんなさい」
「謝ったら済むと思ってんの?」
「……思っていません。ごめんなさい」
「思っているだろ。誤魔化すなよ。ちっ」
「……」
「お前が殺したようなもんだよな」
「はい……」
もういい加減にしろ。自分のストレスなのか、罪の意識をなすりつけたいのか知らないけど、なぜにそこまで人をネチネチと意地悪な言葉を浴びせて、精神的に追い詰められるのだ。
「おい!」
一度怒りに火が付くと、どんどん自分の中で盛り上がって激高をする。
それって、うまくいかない自分のサラリーマン人生に対する苛立ちを、自分よりも立場の弱い人間に八つ当たりしているだけではないですか?
ずっと思っていることを僕が心の中で主張した時だ。
ドカッと鈍い音がした。的を得た指摘をされると、こういう人はすぐに暴力に走る。
「うぐぅう」
僕が今まで聞いたことのない明君のお母さんのうめき声が聞こえてくる。
どこを蹴られたのか分からないけど、僕はお腹のあたりを蹴られたと想像していた。
明君のお母さんはいまお腹を押さえて苦しんでいるに違いない。
もうだめだ。許せない。殺してやる。
僕の中で得体のしれない化け物がカッと目を見開いて目覚めたようだった。
自分でもわかっている。明君のお父さんの言動は、僕の父親そのものではないか。
そして明君のお母さんは僕そのものだ。
僕は明君のお母さんを助けたい。それは僕自身を助けることでもあるのだ。
悔しさや悲しみを堪えようと強く唇を噛んでも、体の震えは止まらない。
唇から血の味がした。
血を舐めながら、僕は目を閉じる。
リビングの光景をいま一度、思い出す。
テーブル、椅子、テレビ、掛け時計、扇風機……西瓜。
フラッシュバックしたのは、西瓜だ。
西瓜。切る。包丁。

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