この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
明君のお母さんと僕
第8章 包丁
「この包丁、この前貰ったんだけど、切れ味がすごいの」
「へえ。そうなんですね」
「これでズブッと刺したら、死んじゃうかも」
明君のお母さんと交わした会話が生々しく蘇ってきた。
包丁だ。
包丁を手にするんだ。
★
僕はひとつ深呼吸をしてから、出来るだけ音を立てないようにゆっくりとクローゼットの扉を開ける。ここから出て、あとはリビングまで突進しよう。突然のことに明君のお父さんはさすがに驚くはずだ。その隙に台所で包丁を手にすればいい。
やれる。僕はクローゼットから這うようにして出た。
その時、頭に何かが当たった。いや、落ちてきた。
なんだよ、これ。僕は頭の上に当たったそれを手にした。
虫取り網だった。
クローゼットの中に立てかけてあった僕の虫取り網が、扉を開けた拍子に倒れてきたようだ。
明君?
なぜそう思ったのか自分でも不思議だ。だけど僕は明君の意識を感じずにいられない。
明君は僕を止めようとしている?
公園でよく一緒に虫取りをした。明君は僕の虫取り網のほうが取りやすいというから、よく交換っこもしてあげた。
殺すのが怖いから、思い出に浸ろうとしているだけなのかもしれない。
それでも僕は数秒前までの感情が嘘のように消えていた。
いまはリビングから物音はしない。
何をしているんだろう。
僕はそっと虫取り網を元の位置に戻すと、再びクローゼットの中で身を潜めることにした。
明君のお母さんとも約束をした。「何があってもここから出たらだめ」と。
そうなのだ。明君のお母さんのことを一番に考えると、僕はここにいないとダメなのだ。
僕が明君のお父さんを殺したいのは、僕自身のためだ。明君のお母さんを守るというのは大義名分であって、僕は明君のお父さんを通して、自分の父親を殺そうとしていた。
だけど本当にそんなことをしたら、一番困るのは誰だ。
紛れもなく明君のお母さんである。
明君のお母さんを本当の意味で守りたいのなら、僕は何があっても、こから出たらダメなのだ。
暗闇のクローゼットの中、虫取り網の網の白さを見つめながら僕はもう一度誓った。
「へえ。そうなんですね」
「これでズブッと刺したら、死んじゃうかも」
明君のお母さんと交わした会話が生々しく蘇ってきた。
包丁だ。
包丁を手にするんだ。
★
僕はひとつ深呼吸をしてから、出来るだけ音を立てないようにゆっくりとクローゼットの扉を開ける。ここから出て、あとはリビングまで突進しよう。突然のことに明君のお父さんはさすがに驚くはずだ。その隙に台所で包丁を手にすればいい。
やれる。僕はクローゼットから這うようにして出た。
その時、頭に何かが当たった。いや、落ちてきた。
なんだよ、これ。僕は頭の上に当たったそれを手にした。
虫取り網だった。
クローゼットの中に立てかけてあった僕の虫取り網が、扉を開けた拍子に倒れてきたようだ。
明君?
なぜそう思ったのか自分でも不思議だ。だけど僕は明君の意識を感じずにいられない。
明君は僕を止めようとしている?
公園でよく一緒に虫取りをした。明君は僕の虫取り網のほうが取りやすいというから、よく交換っこもしてあげた。
殺すのが怖いから、思い出に浸ろうとしているだけなのかもしれない。
それでも僕は数秒前までの感情が嘘のように消えていた。
いまはリビングから物音はしない。
何をしているんだろう。
僕はそっと虫取り網を元の位置に戻すと、再びクローゼットの中で身を潜めることにした。
明君のお母さんとも約束をした。「何があってもここから出たらだめ」と。
そうなのだ。明君のお母さんのことを一番に考えると、僕はここにいないとダメなのだ。
僕が明君のお父さんを殺したいのは、僕自身のためだ。明君のお母さんを守るというのは大義名分であって、僕は明君のお父さんを通して、自分の父親を殺そうとしていた。
だけど本当にそんなことをしたら、一番困るのは誰だ。
紛れもなく明君のお母さんである。
明君のお母さんを本当の意味で守りたいのなら、僕は何があっても、こから出たらダメなのだ。
暗闇のクローゼットの中、虫取り網の網の白さを見つめながら僕はもう一度誓った。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


