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ドラゴンの潜む山
第1章 ドラゴンの潜む山
「美桜。ねえ、美桜! おーい、美桜ってば!」
たった数センチの距離から呼びかけているというのに、美桜は顔を上げない。穂乃果は痺れを切らし、美桜が握っていた色鉛筆をひったくるようにして奪った。
「わあ!」
たった今穂乃果の存在に気付いたと言わんばかりの驚きようで、ばっと顔を上げる美桜。
「返して!」
美桜はお絵描き中だった。居間の小さなテーブルに画用紙を広げている。穂乃果には、見慣れた光景だった。
「じゃあ返事して」
「今塗ってるの!」
テーブルに足を乗せ、穂乃果が奪った色鉛筆を取り返そうと右手を伸ばしてくる。
高校一年生にもなって、テーブルに足を乗せるな、と思う。
行儀の悪さに呆れそうになるも、このままだと美桜はテーブルを乗り越えて突進してきそうだ。そうなる前に大人しく奪ったものを返した。
黒い色鉛筆だった。
描きかけの絵もいつもと同じ。それは一体のドラゴンだった。山から戻ったあの日から、美桜は毎日毎日ドラゴンの絵を描いている。
「ほのちゃんは何色が好き? 何色のドラゴン描いてほしい?」
「そうね、じゃあレインボー。七つ使ってカラフルにして」
穂乃果は少し意地悪な気持ちでそう答えた。
七つ使えと言ったら美桜はどの色を選び、どこをどう塗り分けるのだろう。
「うん、いーよ! 明日はほのちゃんが好きな色で描いてあげる。でもドラゴンは黒だから、それ以外は全部『嘘』なんだけどね」
それ以外は、のところで美桜は穂乃果を上目遣いに見上げていた。特別だからね。そんなニュアンスを感じ取り、穂乃果はわずかに眉をしかめる。
何が嘘だ、と思う。もともとドラゴンなんて。
喉元まで出かかった言葉を、穂乃果は心の内に留めた。
おばさんにーー美桜の母に昔言われた言葉があったからだ。
穂乃果が美桜と出会ったのは、まだ穂乃果が小学生に上がったばかりの頃だった。

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