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「私が欲しいですか?お嬢様」
第26章 マスターの恋模様
再会したあの日。
「沙月…どうして…」
38歳になった沙月は
10代の頃に比べて
幼さは抜けてすっかり綺麗な女に
なっていた。
「久しぶりです…
純也さんの紅茶…飲みたくて」
そう言って笑う沙月。
その笑顔だけは変わっていなかった。
純也はカウンター席の椅子を引き
沙月を座らせた。
「アールグレイでいいかな?」
煙草の火を消しながら
沙月に尋ねると笑顔で頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
カチャ…
「どうぞ…」
久しぶり過ぎる再会に
お互い喋る事はあまりないものの
その静か過ぎる空間は
不思議と気まずくはなかった。
「ん……おいし…ふふ」
純也はチラッとだけ
その顔を確認すると
残っている片付けを続けた。
特別な会話はない。
先に沈黙を破ったのは沙月だった。
「彩芽…純也さんの話していたわ。
ここに来たのね」
純也も手を止め
沙月の前にくる。
「ああ、来てるよ。
お前そっくりの食いしん坊だな…クス」
その言葉に沙月は膨れた。
「まぁ、ひどいっ!
最初にクッキーをくれたのは
純也さんなのに!」
「クックックッ…嘘だよ。
あの子は食べるより作りたがる。
いつも俺にレシピを聞いてくるよ」
そういう所はきっと
雪弥に似たんだろうな。
「そうなの…レシピ…
あの子も料理するのね」
沙月…お前は
こんな話をしに
きたわけじゃないだろう?
「…どうした?」
「え?」
「こんな話をしにきたわけじゃ
ないんだろう?」
沙月の目をまっすぐ見る。
一瞬、驚いた顔をしたが
すぐに笑った。
「ふふ…ほんとお見通しね。
昔より見通せる力がついたみたい」
「バカ言うな」
そう言って俺は煙草に
火をつけた。