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恋セヨ乙女
第3章 接近
「真優は本当に…」


ゆらがため息をついて私をぎゅっと抱き締める。


「用事って雑用でしょ?断っちゃいなよ」


「んー、でもサナちゃん妊婦さんだし」


「妊婦じゃないときから使われてたでしょうに!?」


「……ハハっ」



みんなと遊ぶのはもちろん楽しいけど、でもそんな雑用が嫌いじゃないなんて言ったらおかしいと思われるだろうか。


放課後、暮れていくたび色を変える静かな教室。
時に一人で、時にサナちゃんと喋りなが手を動かす単調な時間。


普段の賑やかさからは想像がつかない、非現実に似た空間が私は好きだった。



「終わったらline送るよ」


「早く終わらせな~」


「了解」



そんなやり取りをしてるとチャイムが鳴り、みんなガタガタと席につき始める。


…次の授業は吉野先生の生物だ。
気だるい午後も「吉野先生の生物」というだけで雰囲気が違う。




教室は甘い匂いに包まれて、みんなどこか艶々している。
念入りにメイクを直す、しきりに髪を整える。
そんな姿があちらこちらで見られる。



そんなクラスメイトを横目で見ながら教科書を出すとガラガラとドアが空き、先生が入ってくる。
日直がいつもより可愛い声で号令をかけ、それから白衣姿の先生に誰もが見とれる。


教室の空気が桃色に変わった。



「先生って後ろ姿がセクシーだよね」


隣のゆらがコソッと耳打ちして私はまじまじ黒板に向かう背中を見る。


…確かにね。
それは納得せざるを得ない。



確かに先生には「色気」というものがあるんだと思う。
指先、背中、うなじ。
何か得体の知れない物質が醸されてるような妖しい魅力。


それは蝶を惹き付ける花のように絶対的な色香。


実際に香るわけじゃないのに吸い寄せるように女たちを魅了する。



……なんて、私は何を考えてるんだ。
先生相手に…恥ずかしい。



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