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恋セヨ乙女
第3章 接近
「さて、始めるか」


椅子に座りプリントを五枚揃えてホチキスで留める。
グラウンドから聞こえる運動部のホイッスルをBGMに単調な作業を繰り返す。


時間がかかるといっても30分もかからない。
そして慣れてしまえばなんてことはないわけで。



「……できた!」



クラスの人数分+サナちゃんと吉野先生、そして三部の予備。


これならカラオケまだ間に合うかも。
部数を確認して席を立った時。



―――――ガラッ


ドアが開いて入ってきたその人は…



「吉野先生…」


「あれ、鈴村さんまだ帰ってなかったの?」


「サナちゃんに修旅の資料綴じ頼まれて」


「へぇ、学級委員は大変だ」


吉野先生はそう言いながら教卓の周りで何かを探している。


「先生は探し物ですか?」


「んー、ボールペンなんだけどね」


あ、あったと先生が小さく呟いた。


「よかったですね」


「俺、気に入ったものは長く大事にしたい質なんだよね」


カチカチとボールペンをノックして先生が笑って見せる。


「書きやすいんですか?」


…見たところ普通のボールペンみたいだけど。


「まぁ、そんなトコ。手に馴染んでるっていうの?とにかく大事だからあって良かった」


それは良かった、なんて私も笑顔で頷いた。
そして綴じた資料をトントンと揃えひとつにまとめる。


「じゃあ私行きますね」


「あ、鈴村さん。今日の授業中の事だけど」


授業中?


一瞬考えて私の顔は真っ赤になる。
先生の背中に見とれてて注意された時の事だ。


「進路の悩みって…さ、」


「あっ!平気です!」


「あれ…」


「まだ漠然としてるっていうか、なんか必要以上に考えちゃったみたいで」


昼間のことを誤魔化したくて懸命な私を気にせず話す先生はマイペースなのだろうか。
そしてペースを崩さず言われた言葉に私は止まる。



「嘘だよね?」


「……はっ?」






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