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恋セヨ乙女
第16章 真優と大地
ああ!もう好きにしろ!とやけになった大地が吐き捨てる。
がしがしと頭を掻いてぶっきらぼうを装うけど繋いだ手は優しく私を包んでいて。


大地の腕にしがみつきながらそんな気持ちが嬉しかった。


それから二人で映画を見てご飯を食べて、ショップを巡ったり公園に行ったり。
いつもは行かないイタリアンでディナーしてイルミネーションも見に行って。


冷たく澄んだ空気にキラキラ輝く世界はどこか非現実的で切なくなった。
冬の早い日暮れがこれから始まる密事を強く意識させる。


クリスマスはイエス・キリストが生まれた日。
その前夜に私たちは、神が禁じた行為を行おうとしている。


蛇にそそのかされ禁断の林檎を口にしたアダムとイヴ。
その血は確実に私たちにも受け継がれているんだと思う。


決心に揺るぎはなかったはずなのに、今、私は林檎を前にして戸惑っている。
口にしたら楽園には居られない禁断の果実に。


「真優」


大地の呼び掛けに振り向くと真顔の大地がいた。


「そろそろ行くか」


そして大地は手を差しのべる。
この手を取ったらもう後戻りはできない。


「………」


「…真優?」


不安そうな大地の顔。
大地とひとつになることに何の不安があるのか。
身体を重ね肌を合わせることを私は望んでいたはずだ。



差し出された大地の手…
子供の頃から知っている手は気づいたら私よりずっと大きく逞しいものになっていた。


何度この手に高められただろう。
いつだって優しかった大きな手をじっと見つめる。


躊躇しながら大地に手を伸ばす。
その手が大地に届いた時、力強く男らしい強引さで引き寄せられた。


大地は何も言わず、私も言えず歩き出す。




それから二人で大地の家に向かった。
私は手のひらの暖かさに再び気持ちを固めていった。



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