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第22章 新生活

「何を教えてもらえるんですか？」


その時、私と教頭の間に無理矢理入り込んだ人がいた。


「教頭、お酌に来ました」


「吉野先生がかい？珍しいこともあるものだな」


「そうですか？そんなことないでしょう」


先生は持参したビールをにこやかに注ぎ、私を背に隠すように教頭に向かい合う。


……助けてくれた。
さっきの心細さから解放され泣きそうになった私は誤魔化すようにビールを煽った。


「おや、真優先生はいい飲みっぷりですね」


校長がいつもの笑顔でニコニコ私を見て言った。


「……はい、嬉しくて」


「姫を守るナイトですか…結構結構」


校長が私にビールを注いでくれる。
本来なら逆でなければいけないのに…


「いただきます！」


「ほほっ、若い子は気持ちいい飲み方をしますねぇ」






それから体がフワフワしてきて気づいたら他の先生にもお酌をされていた。


「真優先生、今度私とジムに行きませんか？」



「んー…」


眠い。瞼がくっつきそうだ。


「真優先生、ぼ…僕と二人でロジックを解きましょう」


「………」


――――この辺まではかろうじて覚えている。
でもそこからの記憶は曖昧で。




ユサユサする揺れが心地良い。
私が再び気づいたのは誰かの広い背中だった。




「ん……」


「起きた？酔っぱらい」


静かな声。
春の夜みたいに低く柔らかいこの声は、
…私の好きな先生の声だ。


酔った頭で「私の好きな」が掛かるのは「先生」だろうか「声」だったのだろうかとぼんやり思った。



「先生？」


「ん？」


「…さっきはありがと」


先生が割り込んできてくれたとき嬉しかった。
校長先生が言ったみたいにナイトに見えた。


先生は「はいはい」と苦笑いして私を軽く受け流す。


「本当だよ？本当に嬉しかったんだよ？」


「分かった分かった」


「…こういう時助けてくれるのはやっぱり先生だね」


先生の背中は暖かくて、幼い頃のお父さんの背中を思い出す。


「あの時は気づくの遅れたから…今日はどうにか間に合ってよかった」


「うん…」





あれから５年。
一度好きになった人って壁が薄くて困る。


こんな風に助けられて体温を感じてしまえばそれは尚更…