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アネゴ的カノジョ
第6章 酒と温泉と…
 
「…っ!?」

 すかさず扉から杏子の体が離れた。


…嘘…?
覗いてたの……バレた……?


 濡れた浴場の床に女の子座りで、視点の定まらない目が虚空を彷徨う。

 先程までとは違うドキドキが鼓動を早めている。


…気のせい……気のせい……だよな………


 そう言い聞かせても、振り向いた葵の妖艶な表情が脳裏に蘇る。

 扉の方を向いて、恍惚な表情に艶めかしく舌で唇を舐める仕種。

 葵の快感に潤んだ瞳と視線が合った感覚を思い出す。


…絶対…覗いてたの……
分かったよね………


 床に着いた両手の指先がギュッと握り拳を作る。


…取り敢えず…此処から……


 艶めかしい葵の表情が再び頭に浮かんだ瞬間、弾き出されたかのように杏子は浴室から飛び出した。

 脱衣所にある脱ぎっぱなしの浴衣を掴み、躊躇う事無く濡れている体に羽織る。

 まともに帯も結ばずに、ガラガラッと勢い良く扉を開けて暖簾を潜る。


…と…とにかく……何処か………


 すっかり酔いの醒めた頭で落ち着ける場所を求める。


…大広間も…部屋も……誰か居るかもしれないし……
それに戻ってきたら………


 どんな態度をしたらいいかわからない杏子。

 少なくとも、今は葵と顔を合わせたくない心境に覆われる。

 脱衣所を出て直ぐに脚が止まっていた。

 キョロキョロと周囲に向けていた視線が一点で止まる。


…あそこにっ…


 杏子は僅かに開いていた扉に、躊躇う事もなく手を掛けた。
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