この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
鬼灯の寵愛
第1章 幾千の時を越えて
「――丁さん、はい」
彼女が差し出したのは、小さなヤジロベエだった。
「……私に?」
「はい、あげます」
無邪気な笑みを浮かべて差し出されたそれを、そっと受け取る。
そのまま指先に、乗せてみた。
「左右均等の重さじゃないですね。少し左に傾いていますよ」
「私が作ると、どうしてもそうなっちゃうんです。これでも上手にできたほうですよ?」
彼女の手作りらしいヤジロベエは、僅かながら左寄りにゆらゆら揺れている。
「……ありがとうございます。大切にします」
「ふふっ、嬉しいです。いつも外の話をして楽しませてくれるお礼にと思ったんだけど、私が貴方にあげられるのはこれくらいしかなくて」
「いえ、充分です。このような贈り物は初めてです」
左寄りに傾いたヤジロベエを見つめながら、淡々とした口調で話す少年は、みなしごの丁。
話相手は、布団から起き上がった態勢で微笑んでいる少女。
「そう言えば、今日の貴女は顔色が良いですね。具合は良くなってきているんですか? 姫」
姫と呼ばれた少女は、うーん、と唸りながら首を傾げた。
「良い時も悪い時も同じくらいあります。今日は丁さんとお喋りできたから、いつもより元気です」
真っ直ぐに、屈託の無い笑顔を浮かべる姫。
「…………そうですか。そう言って頂けると嬉しいですね」
丁は思わず目を逸らしてしまった。姫の笑顔が眩しくて、胸が高鳴る。
「丁さん、もっと貴方とお喋りしていたいけど……そろそろ父上様と母上様が帰ってくるわ。貴方とお喋りしているところを見られたら……」
「そうですね、村長と奥方様は私を嫌っていますから」
姫の言葉に我に返り、立ち上がる。
「また今度いらしてね」
「ええ、ではまた」
部屋を出ようと歩き出すが、途中で振り返った。
「今度は、私もヤジロベエを作って差し上げますよ」
「えっ、本当に?」
「はい、きちんと左右均等にして作ってあげます」
「ふふ、ありがとう、丁さん」
… … … …
彼女が差し出したのは、小さなヤジロベエだった。
「……私に?」
「はい、あげます」
無邪気な笑みを浮かべて差し出されたそれを、そっと受け取る。
そのまま指先に、乗せてみた。
「左右均等の重さじゃないですね。少し左に傾いていますよ」
「私が作ると、どうしてもそうなっちゃうんです。これでも上手にできたほうですよ?」
彼女の手作りらしいヤジロベエは、僅かながら左寄りにゆらゆら揺れている。
「……ありがとうございます。大切にします」
「ふふっ、嬉しいです。いつも外の話をして楽しませてくれるお礼にと思ったんだけど、私が貴方にあげられるのはこれくらいしかなくて」
「いえ、充分です。このような贈り物は初めてです」
左寄りに傾いたヤジロベエを見つめながら、淡々とした口調で話す少年は、みなしごの丁。
話相手は、布団から起き上がった態勢で微笑んでいる少女。
「そう言えば、今日の貴女は顔色が良いですね。具合は良くなってきているんですか? 姫」
姫と呼ばれた少女は、うーん、と唸りながら首を傾げた。
「良い時も悪い時も同じくらいあります。今日は丁さんとお喋りできたから、いつもより元気です」
真っ直ぐに、屈託の無い笑顔を浮かべる姫。
「…………そうですか。そう言って頂けると嬉しいですね」
丁は思わず目を逸らしてしまった。姫の笑顔が眩しくて、胸が高鳴る。
「丁さん、もっと貴方とお喋りしていたいけど……そろそろ父上様と母上様が帰ってくるわ。貴方とお喋りしているところを見られたら……」
「そうですね、村長と奥方様は私を嫌っていますから」
姫の言葉に我に返り、立ち上がる。
「また今度いらしてね」
「ええ、ではまた」
部屋を出ようと歩き出すが、途中で振り返った。
「今度は、私もヤジロベエを作って差し上げますよ」
「えっ、本当に?」
「はい、きちんと左右均等にして作ってあげます」
「ふふ、ありがとう、丁さん」
… … … …