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籠の中の少女
第2章 少女と小夜香
    ※  ※  ※

 四ヶ月くらい前のある日。
 その日の関東地方は朝から断続的に強い雨が降り続いていた。
 午後になっても雨足が弱まる気配はない。
 リクルートスーツに身を包んだ小夜香は、ホームの一番端に立っていた。そこには屋根がなく、傘を差していない小夜香の体はずぶ濡れだった。
 電車がホームに向かって滑りこんでくる。
 周りの人も、近づいてくる車両の動きも、大量に降る雨粒も、まるで動きはスローモーションのようだった。
 小夜香の体は、ゆっくりホーム下の線路の方へと傾いていった。
 ――あれ?……あたし、何してんだろ……?
 ――そっか、思い出した……『終わり』にするんだった。
 ――じゃあこのまま力抜いてていいんだよね……?
 電車は何度も警笛を鳴らしながら、急ブレーキの音を立てたが、ほとんど速度を落とすことが出来ずホームに滑りこんできた。
 そこからは、画像データが削除されてしまったかのように何も覚えていない。
 小夜香が次に見た光景は、少し遠巻きに彼女を囲むホームの野次馬たちと、必死に大声で話しかけてくる、鋭い目をした小夜香の知らない中年男性の顔だった。
 ――このおじさん、あたしに何て言ってるんだろう……?
 どうも、「聞こえるか?」と何度も言ってるらしいことが分かってきた。
 同時に小夜香は、線路の上でもなく大雨の中相変わらずずぶ濡れのままホーム上で倒れていて、上半身をこの中年男性に抱えられていることに気づいた。
 中年男性も、同じようにずぶ濡れになっている。
 ――高そうなスーツ……濡れちゃってますよ? 大丈夫ですか……?
 小夜香がそんなことを思っていると、もう一度男性は「聞こえるか?」と聞いてきた。
 小夜香の意識は、徐々にはっきりしてきた。
 そしてようやく我に返り――いろんなことを思い出した。
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