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籠の中の少女
第2章 少女と小夜香
どこをどう連れられてきたのだろう――やがて着いたのは、広いホテルの一室だった。
安普請のラブホテルや、リーズナブルなビジネスホテルなどではない。
ベッドが二つある。インテリアをひと通り見回すと、一介の女子大生に過ぎない小夜香にも、それなりのランクのホテルであることは直感で理解できた。佐伯に言われるままシャワーを浴び、化粧も落とし、髪も乾かし、バスローブに身を包んだ。
佐伯はシャワーに入らず、髪を拭いて着替えだけで済ましたようだ。小夜香が浴室から出てきた時には、すでに別のスーツに身を包みソファに腰掛けて紅茶を飲んでいた。
「君はもう死んだ人間だ」
突然、佐伯は言った。
小夜香は意味が分からなかった。
今、こうして生きていて、シャワーさえ浴び終わっているのに。
佐伯は続けた。
「私が君をホームで拾い上げなかったら、君は今頃ただの肉塊だ」
しばらくの静寂の後。
「あの……」
ようやく小夜香は口を開いた。
「何だ?」
「……あたし、お礼は言いません」
佐伯の眉がかすかに動いた。
小夜香はにらむように佐伯を見て続けて言った。
「……邪魔されましたから」
「死んだ人間にどのみち礼を言われる覚えはない」
――え?
佐伯は立ち上がり小夜香に歩み寄ってくると、突然小夜香の髪をわしづかみにして顔を引き寄せた。お互いの鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離だ。
「人権とは生きている人間のためのものだ。一方、君は未だ死ぬ意思を捨てていない。すなわちもう死んでいる」
佐伯は小夜香のバスローブを引き剥がし、全裸にすると彼女を縄で後ろ手に縛り上げた。
小夜香はそれに抵抗し「やめて」と何度も叫んだが、男性の腕力には到底かなわない。
一方で、暴力を振るわれているにもかかわらず、さっきまで自殺しようとしていた自分が、自然と『抵抗』という『防衛』を試み「やめて」という言葉まで吐いていることを小夜香は滑稽にも思った。そして乱暴されている最中に冷静にそんな感情が湧いてくることを、一層滑稽に感じた。
安普請のラブホテルや、リーズナブルなビジネスホテルなどではない。
ベッドが二つある。インテリアをひと通り見回すと、一介の女子大生に過ぎない小夜香にも、それなりのランクのホテルであることは直感で理解できた。佐伯に言われるままシャワーを浴び、化粧も落とし、髪も乾かし、バスローブに身を包んだ。
佐伯はシャワーに入らず、髪を拭いて着替えだけで済ましたようだ。小夜香が浴室から出てきた時には、すでに別のスーツに身を包みソファに腰掛けて紅茶を飲んでいた。
「君はもう死んだ人間だ」
突然、佐伯は言った。
小夜香は意味が分からなかった。
今、こうして生きていて、シャワーさえ浴び終わっているのに。
佐伯は続けた。
「私が君をホームで拾い上げなかったら、君は今頃ただの肉塊だ」
しばらくの静寂の後。
「あの……」
ようやく小夜香は口を開いた。
「何だ?」
「……あたし、お礼は言いません」
佐伯の眉がかすかに動いた。
小夜香はにらむように佐伯を見て続けて言った。
「……邪魔されましたから」
「死んだ人間にどのみち礼を言われる覚えはない」
――え?
佐伯は立ち上がり小夜香に歩み寄ってくると、突然小夜香の髪をわしづかみにして顔を引き寄せた。お互いの鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離だ。
「人権とは生きている人間のためのものだ。一方、君は未だ死ぬ意思を捨てていない。すなわちもう死んでいる」
佐伯は小夜香のバスローブを引き剥がし、全裸にすると彼女を縄で後ろ手に縛り上げた。
小夜香はそれに抵抗し「やめて」と何度も叫んだが、男性の腕力には到底かなわない。
一方で、暴力を振るわれているにもかかわらず、さっきまで自殺しようとしていた自分が、自然と『抵抗』という『防衛』を試み「やめて」という言葉まで吐いていることを小夜香は滑稽にも思った。そして乱暴されている最中に冷静にそんな感情が湧いてくることを、一層滑稽に感じた。