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籠の中の少女
第2章 少女と小夜香
(3)

 明け方、小夜香はベッドの上で目を覚ました。
 見慣れない光景に最初は状況が全く分からなかったが、佐伯にここへ連れられ、訳の分からないまま全身を責められたことをおぼろげに思い出すと、鞭や熱蝋で傷めつけられた身体がバラバラになってるかのような感覚をようやく意識できた。
 そして――膣と尻穴がずっと振動を続けて、未だ甘い淫靡な感覚に浸り続けてることに気付いた。
 小夜香は上半身を起こし自分の身体を見た。
 きちんとバスローブをまとっている。
 ――夢……?
 バスローブをはだけてみると、乳首は少し腫れ、鞭の赤い痕が全身に残っている。やはり現実だったようだ。ただ、痕は残っているものの身体も髪も綺麗に洗われ、膣と尻穴からは淫具が抜かれていることに気付いた。縄による拘束も解かれている。猿轡も噛まされていない。小夜香が転がされていたあたりの床も、まるで何事もなかったかのようにカーペットは綺麗に戻っている。体液の一滴も残っていない。
 小夜香は、もうひとつあるベッドの端にこちらの方を向いてバスローブ姿で腰掛け、『判例に見る争点としての逸失利益』というタイトルのハードカバーの本に目を落としている佐伯に気付いた。
 佐伯はゆっくり顔を上げ小夜香を見た。
 佐伯は表情ひとつ変えず動きもしない。
 「あの……」ようやく小夜香は声を出した。「ここ、どこなんでしょう……?」
 そう言いながら小夜香は何でそんなことを聞いてるんだろう? と思った。聞くなら他にいろいろあるだろうに――。
 しかし、やっと出た言葉はそれだったのだ。
 「少なくともあの世じゃあない」佐伯は本を閉じながら言った。
 ――あの世じゃない……。
 小夜香は佐伯の言葉を心の中で繰り返しつぶやいた。
 しばらくして、佐伯に促されるでもなく小夜香は自分の身の上話を始めた。
 なぜそんなことを話す気になったのか、小夜香にも分からない。
 親元を離れ一人で暮らし大学に通っていること、就職活動がうまくいってないこと、何度も繰り返される面接による重圧と不合格に人格を否定されているような気になっていったこと、それが元でノイローゼになって心療内科に通い薬を処方してもらっていること――。
 佐伯は、小夜香がしゃべっている間、眉ひとつ動かさずじっと彼女の顔を見たまま微動だにしなかった。
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