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籠の中の少女
第2章 少女と小夜香
(6)
小夜香は意を決して階段を降り始めた。
何食わぬ顔をしてすれ違うしかない。
普段通りに、普段通りに、と考えれば考えるほど階段を降りる足が速くなる。
二階への途中の踊り場を過ぎた時、ちょうど二階へ登り切った相手の後ろ姿が見えた。
小柄な男性だ。
小夜香は左端に寄り、努めて冷静を装って降りていく。
男性は方向を変え、三階へと階段を登り始める。
相手の顔が見えた。
小夜香の見知らぬ男だった。
白のヨレヨレのポロシャツにチノパンといったラフな格好だ。
背が低い。小夜香よりもまだ低い。その上、華奢だ。本気で喧嘩したら、腕力でも小夜香が勝ってしまうのでは、と思うほどである。
年齢は見たところ三十代から四十代といったところか。
小夜香と男性は、階段の途中ですれ違った。
――大丈夫だった……
――このまま普通にして降りていけば……
――申し訳ありません、ご主人様……。
その時。
小夜香は突然背後から男性に腕をつかまれた。
思わずヒッ!と声を上げた。
小夜香は振り向いて男性を見た。
その顔は柔和で微笑をたたえていた。
それが――。
小夜香にはかえって不気味だった。
腕の細さと、顔の柔らかさに反して、小夜香の腕をつかむ力が尋常じゃない強さだからだ。