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籠の中の少女
第2章 少女と小夜香
 すると男性は小夜香の側に来て一緒に階段を降り始めた。
 「車は?」
 「いえ、タクシーで来たものですから」
 「君チャレンジャーだなぁ……こんな田舎でタクシーは拾えんぞ……ほら、普通の車さえ走ってねえだろう? ましてや流しのタクシーなんて一生待っても来ねえよ。となれば駅だろ? 軽く七、八キロはあるし、歩いて行くにはちょっと遠いし。まあ、君が陸上の長距離選手ってなら余裕だけどそんな風には見えねえしなあ」
 男性の変に軽々しい喋り方に少しいら立ちを覚えつつも、一緒に一階に降り立った小夜香は周囲を見渡した。
 確かに、周囲にほとんど普通の車さえ走っていない。タクシーは拾えそうにない。
 そこに一台の軽自動車が走ってきた。
 男性が手を上げると、その軽自動車はスピードを落とし二人の側に止まった。
 軽自動車の側面には、ここの町名なのだろう、町役場の名前がシールされていた。
 ウインドウが開くと、中から中年女性が顔を出して言った。「あら? 松岡先生、どうしたんですかこんなとこで?」
 「いやね、今時間が出来たもんだからさ、ちょうどこのアパートを調べに来てたんすよ。うちの学校の生徒がたむろしてるんじゃねいか、って話知ってるでしょ?」
 そうして松岡と呼ばれた男は、役場の中年女性と言葉を交わしたあと、小夜香を最寄り駅まで送ってやって欲しいとお願いした。小夜香も、役場の、まして女性なら大丈夫だろうと思い松岡の言う通り駅まで送ってもらうことにした。
 駅へ向かう道中、女性はしきりに松岡の話をした。彼についてかなり多くのことを語っていたが、結局のところ『今どきめずらしい責任感と能力のある、地元でも絶大な信頼を寄せられている教師』だという同じ話を言い回しを変えて繰り返しているだけだった。そして時々「あのちっぽけな体格と一見ふざけたような話し方もまた、何か可愛いのよねえ」という言葉を挟んだ。
 あんなさえない格好の小柄で折れそうな男が、そんなに優秀で信頼の厚い教師とはとても思えなかった。
 小夜香は素直にその話を受け入れられなかった。
 ただ――。
 それは松岡の見た目とは全く別の理由からだった。
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