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籠の中の少女
第3章 松岡と小夜香
(1)

 「隠し事というのは隠し通すから隠し事であって、小夜香のは隠し事ではない」
 車の運転を続けながら、突然佐伯は助手席の小夜香に言った。
 小夜香はその言葉に一瞬息が止まりそうな感覚に襲われた。
 「ご主人様に隠し事なんて……」
 小夜香はうつむいたまま黙ってしまった。
 「……お前の頭ではなく身体に聞いてやろうか?」
 小夜香はかすかに全身をぶるっ、と震わせた。
 一方で、安堵の気持ちも生まれた。
 いや――生まれたというより、ようやく心の底から安堵していた。
 松岡に会ったあの日の事。それ以来の一週間弱、今日まで小夜香は不安と心細さを一人で抱えていたが、どんな厳しい折檻が待ち受けようとも、佐伯に自分の全てを委ねられる方がはるかに安心を実感できる。
 そして、あの少女のことも。
 あの松岡という教師のことも。
 ――ご主人様……小夜香の身分を……
 ――この身体に刻み込んでください。
 ――小夜香の心が強くなれるように。
 小夜香は佐伯の言葉の中にようやくかすかな安心がつかみ取れると思った。
 しかし、佐伯はそれっきり黙ってしまった。
 車は普段通り何事もなく佐伯が運転するまま走っていく。
 車内に沈黙が続く。
 ――ご主人様……
 ――お願いです……何かおっしゃって……
 相変わらず、佐伯は何も言わない。
 叱られるよりも、鞭を施されるよりも、黙られる方が――
 ――怖い。
 ――本当は……ご主人様は小夜香がアパートに行ったことも……
 ――あの少女に会ったことも……
 ――あの男性に見られたことも……
 ――全部お見通しなんじゃないだろうか……
 しばらくして、赤信号で車は止まった。
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