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籠の中の少女
第3章 松岡と小夜香
 「小夜香、中にある人物がいる。彼の言う事に従いなさい。彼の命令は私の命令だ。いいな?」
 佐伯の意外な言葉に、小夜香は面食らった。
 ――ある人物?
 ――彼の言うことに従う?
 ――どういう……ことですか……?
 いいな? と突然言われても、はいわかりました、とおいそれと答えにくい指示だ。
 小夜香はくわえているバイブレーターを取って佐伯に泣きつこうと思ったが、身体が動かなかった。
 佐伯の命令は絶対だ。
 それに、佐伯の手によってくわえさせられたバイブレーターを小夜香自身の手で抜くことはできない。自分の手で抜くなとは言われていない。抜けないよう固定されているわけでもない。言われてもなく固定もされてもないが、佐伯の手で施されたものは、小夜香にとってそれは自分の意思で勝手に触れられるものではないのだ。これまでの佐伯からの調教を通して、いつしか小夜香の思考回路はそうなるよう躾けられていた。
 抜くなと言われない限り、あるいは佐伯自身の手で抜かれない限り、くわえ続けなければならないのだ。
 それにしても、中にいる『彼』とは誰なのだろうか。
 小夜香の知る人物?
 それとも全く知らない人物?
 いずれにせよ、佐伯が小夜香に命令したのは――『ご主人様以外の男に身体を貸すこと』であるとしか思えない。
 ――イヤだ……
 ――そんなのイヤだ……
 ――ご主人様、小夜香の身体はご主人様だけのモノなんです……
 ――隠し事したからですか……?
 ――もしかして、これがお仕置きなんですか……?
 小夜香は佐伯の手により無理矢理部屋の中へ押し込まれた。
 背後の扉が佐伯によって閉じられた。
 小夜香は、待ち受けている人物を知りたくない気持ちと、恥ずかしい気持ちとでうつむいてしまった。
 うつむくと、バイブレーターを伝って床にポタポタと自分の唾液が落ちていく様子だけが見える。
 小夜香は、自然と涙がこぼれてきた。
 部屋の中は照明が灯されている。
 頭を上げれば、すぐにでも『彼』の顔を見ることはできる。
 「……かわいそうになぁ。部屋に入っても、絶対に顔を上げるなとでも命令されたのかい?」
 『彼』が口を開いた。
 その声を聞いた小夜香の足が、かすかに震えた。
 聞いたことのある声だからだ。
 小夜香は顔を上げた。
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