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籠の中の少女
第1章 佐伯と小夜香

(2)

 まだ残暑の名残があり、扇風機しか置かれていない蒸す部屋にもかかわらず、スーツの上着も脱がずネクタイも締めたままの佐伯は鞭を振り下ろす手を止めた。もう四十代後半に差し掛かる佐伯のその立ち姿は、ほとんどの同年代男性のそれとは異なり、背筋も美しく腹も引き締まっていて端麗だ。
 佐伯は小夜香の顔の前にしゃがんだ。そして小夜香のあごを片手でグイッと力を入れてつかみ、にらみながら強引に小夜香の顔を上に向かせた。小夜香は一瞬苦しそうなうめき声を上げた。
 「もうひわへ、ごはいまへん……」小夜香はボールギャグの間から大量に垂れ流している唾液とともに必死に声を出した。
 「もうひわへ、ごはいまへん、もうひわへ、ごはいまへん……」小夜香が声を出すごとに、彼女の唾液が弱い射精のように軽く飛び散る。目は真っ赤になって涙を垂れ流している。
 小夜香のあごをつかんだまま、佐伯は言った。
 「いいか小夜香、空っぽの鳥かごは……全財産を慈善事業に捧げることのできる資産家の目を通しても、働く気も金も家もないコソ泥の目を通しても、鳥かごの中に鳥の姿を認めることはない。そうだろう?」
 小夜香は何度も必死に首を縦に振った。むろん、あごを強くつかまれているのでまともには振れないのだが。
 「……このアパートも同じなんだ。ここ以外、全て空き部屋だ。ということはどの部屋であっても、誰の目を通しても人影など見えるはずがない。そうだろう?」
 小夜香は小刻みに頭を震えさせることしかできない。
 「にもかかわらずお前は、私が否定しても何度もしつこく聞いてきた。つまりお前は私を信じていないということになるね。お前の従順は見せかけなのかい?」
 今度は小夜香は小刻みに横向きに首を振った。
 「ならば小夜香、二度とその話をしてはいけない。いいね?」
 佐伯は小夜香のあごから手を離すと、小夜香は大きく首を縦に振った。
 ボールギャグから垂れる唾液が照明を反射させて光る。
 佐伯は顔に微笑を浮かべ――小夜香の頭を撫でた。
 その瞬間、小夜香は拘束されたままの全身をビクビク震わせ、子宮の奥から絶頂した。
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