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籠の中の少女
第3章 松岡と小夜香
 しかし一方で、なぜか別の感情が小夜香の中に産まれていた。
 小夜香は首を何度も横に振ってそれを振り払おうとした。
 ――違う!
 ――そんなことどうでもいい!
 ――この人に……
 ――魅力なんて感じてもらわなくていい!
 小夜香は再び首を横に振った。
 そして大きく深呼吸して、松岡に向かってゆっくり言った。
 「だったら……あたしをご主人様のところに帰してください」
 松岡は少し険しい顔をして、本の紙面から小夜香の顔へと視線を移した。
 「……僕の言うことはすなわち彼の言うことだ、って最初に聞いたはずだよねえ?」
 「ご主人様が飽きたとおっしゃってるんですか!!」小夜香は思わず正座を崩し身を乗り出して叫ぶように言った。心なしか「飽きた」という言葉に力が入ってしまっていた。
 「うるせぇなぁ……黙って正座してろよ」
 小夜香は小さくぶるっ、と身体を震わせた。
 なぜなら松岡の目は――何とも言えない『殺気』を帯びているように、小夜香には見えたからだ。
 小夜香はおとなしく正座し直した。
 佐伯が松岡に従うよう小夜香に言ったのは事実だ。
 しかし、今まさに佐伯は小夜香のことなど忘れ、あの少女を蹂躙して嗜虐心を満たしている最中かも知れない。
 そう考えるといてもたってもいられなくなってくるが、松岡に逆らえばそれこそ佐伯の怒りをかって本当に捨てられてしまうかも知れない。
 小夜香は黙って松岡に従うほかはなかった。
 そんな調子で、調教部屋に連れてこられた日は松岡に預けられても小夜香は正座するだけで、不安と葛藤にさいなまれ、佐伯の迎えを待つだけになってしまった。
 正座している間中、小夜香は松岡が言う『飽きた』というのは佐伯の心情を代弁しているようにしか考えられなくなっていった
 何もされず、何も分からない。
 けれど、不安だけが増大していく。
 これほど辛いことはあるだろうか。
 これまで佐伯に施されたどんな厳しい調教よりも小夜香には辛かった。
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