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みなしごの告白
第2章 告白 二

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 ……えっと……あ、そうですね……次の週ですね。予定通りに生理も終わって、彼と会う前日になりました。その頃にはすっかりイライラした気持ちもなくなってしまって、常務からも何の連絡もなく、心配してたことも自分自身ですっかり忘れてしまって……ええ、常務どころか会社からも電話の一本もありませんでした。その時は彼と会うことの楽しみの方が大きくなってました。夜に彼と長電話……二三時間くらいでしたか、とりとめもない話をして、次の日の待ち合わせ場所と時間を決めました。
 それが当日……会ったらまずお昼を食べようと言ってたので彼との約束は十一時頃だったんですけど、朝の九時くらいに……常務から携帯に電話が来たんです……。え? 違うんです、入社に備えての業務上や手続き上のことであれば迷う必要なんてありません。夜に食事をしないかって電話だったんです。その日は彼と夜も一緒に食べようって約束をしていて……あ、ええ、おっしゃる通り……私、どうしてだか、『迷った』んです……。でも、普通だったら先約があるから断るのが当然ですよね。というか、先約も何も、まさにもう恋人同士になる寸前の相手と、妻子あって年齢も親子ほど離れた初老の男性……ましてやこれから上司になる男性とでは迷う余地なんてないじゃないですか、普通は……。でも私、何を思ったか、後で折り返し電話で返事を差し上げるなんてことを言って切ったんです……。常務が電話の向こうで食事をしないかとおっしゃったとき、本当は、手続きなどの話ではなかったのでお断りしようとしたんです、迷いはすれど……。それが、ぎりぎりになって私の口は思う通りの言葉を発しませんでした。携帯握りながら声帯を動かす瞬間に、まだどっちの選択もできる余地を残したくて、とっさにそう答えたんです。電話を切ったあと……私何を言ってるんだろう、という気持ちと、まだ少しでも迷える時間が確保できてホッとした気持ちとが混在してました。『私、常務と心のどこかで会いたがっている――』。またあの快楽を欲してるのかと思うと、いえ、ハッキリとは自覚してないんですの。心の奥底でかすかに胎動してるだけのような……でも、ほんの少しでもそう考えたら、また自分がどうしようもない淫らな人間に思えてきたんです。
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