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みなしごの告白
第5章 告白 五
 ……あとで分かったんですが、私の視界を奪うだけではなく、ヘッドフォンが外れないようにすることで聴覚も奪う意味もあったんです。ヘッドフォンからは耳を傷めない程度の大きな音で、クラシック音楽が流れていました。クラシックなんて真面目に聴いたことなんてなかったので何という名前の曲なのか全く知りませんでしたが、シューベルトの『未完成』という交響曲――第七番ロ短調だと後で教えて頂きました。……『未完成』っていうのは象徴的じゃないですか? ……え? そうですよね、クラシックなんてよほど好きでいらっしゃらない限り名前だけ言ったってどんな曲か分かりませんよね。でも私が象徴的だと言ったのは曲そのものではなくて、曲名です……。まだまだ常務専用の性処理奴隷として私は『未完成』なんだとたしなめられているようで……。常務はクラシックがお好きだったんです……。それはさておき、その『未完成』を聴かされたままの私は、視覚も聴覚も奪われましたが、ベッドの上に座らされていることだけは分かりました。
 目も見えず、耳も聞こえないということが、こんなにも高揚感を産むものなのだと、私はその時初めて知りました。座らされているだけなのに……。耳も聞こえない、というのは少し違いますね、様々な楽器が織り成す美しいハーモニーが流れている……それ以外は聞こえないので周囲の音は分からない、ということです。視覚と聴覚を不自由にされた状態で、座らされ、放置されたままというのを長い時間続けていますと……すると肌全体が、毛穴の一つ一つまで、髪の毛の先、爪の先までだんだんと過敏になっていき、私の身体に触れるかすかな空気の流れに、シーツの繊維一つ一つに、それらに愛撫されているような幻想的な世界へと飲み込まれていく感じがしました。
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