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みなしごの告白
第1章 告白 一

(2)

 会社からかかってきた電話は入社に備えての何か事務的な連絡とばかり思ってましたから、お相手が常務だと分かったときはびっくりしました。……え? ええ、事前にお会いしてます。最終面接が役員面接で、社長と一緒に面接してもらったときに面接官として同席されてましたから。あと内定いただいた後の訪問でも……。常務の印象は……あまり良くはなかったんです。歳は当時で五十七、ご存知の通りほら、白髪で渋い感じでしたでしょう? 別に厳しい言葉を投げかけられるとか、怒鳴られるとか、そんなことはもちろんないのですが、何でしょう……どこか高圧的というか、威圧的というか……それでもほほ笑みをたたえている。……ですよね? ああ、あまりお話される機会はなかったんですね……。ただ奇妙だったんです、私にとってあの表情が……とにかく、お会いした時の印象は良いものでなかったことは確かです。
 その電話で私は次の日会社に来るよう言われました。急なことで変だなとは思ったんです、しかも……食事も用意するから、夜まで空けるように言われたんです。もちろん、彼との約束がすぐに頭をよぎりました。でもね、内定をくださった会社の常務の呼び出しでしょう? 彼との約束は正午、会社への呼び出しは午後四時とか、夕方だったと思います。彼に会ってから会社に行くこともできなくはないですが、ぎりぎり過ぎると言いますか、やっぱり余裕はないですよね。スーツで彼に会って時間気にしてそわそわして、慌てて電車で東京に向かうというのも……ちょっと落ち着きのない話ですし。やはり会社を優先しないといけないと思った私は、すぐ彼に電話してその事を話しました。もちろん彼は残念がってましたし、私も残念に思いました、その時は……。でも彼は、合格がひっくり返るわけでもないし、会社の方が大事だから行っておいで、と言ってくれました。それで……あ……はんっ……ふ……。
 ……ごめんなさい、何でもないんです。本当に……気分が悪いわけじゃないんです……。
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