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狂人、淫獣を作る
第1章 獲物
(4)
最初に、例の倶楽部で起こった出来事について話さないといけない――後藤はそう前置きした上で、倶楽部でマユを見世物として披露していた時のことを語った。
倶楽部では、参加客は全員、男はスーツ、女はドレス着用、顔には仮面をかぶることがルールだった。仮面は倶楽部から支給される。そのデザインはピエロの顔であった。仮面は鼻から下が欠けていて口は露出しているので、飲食ができるようになっている。会場は十数個程度の椅子と小さなステージがあり、絨毯から椅子のシート、緞帳にいたるまで真紅で統一されていた。
薄暗い灯りが全てを真っ赤に染め切った空間の中、多人数のピエロたちがステージ上で倶楽部のスタッフに鞭打たれているマユを見ている光景は――非日常で、異世界だった。
マユは見世物として出されているため仮面は許されないが、演出も兼ねて素性が分からないよう幅が太めの布で目隠しされ、絶頂する様子を何度も客にさらしていた。
後藤は観客として自分の奴隷を鑑賞していたわけだが、その時ある一人の客に目が止まった。
どこか落ち着きがない。
ステージ上のマユに目を奪われているようでいて、そのくせ時おりあわただしく周囲を見回す。
倶楽部には時々入会希望などの見学者がやってくることがあった。彼も見学者かもしれない。この倶楽部にはふさわしくない見学者だなと思ったものの、後藤にとってはどうでもいい話だった。
しかし後藤は、なぜかその見学者から目が離せなかった。
その挙動から後藤の知っている人間に思えたからだ。いや、いくつか見覚えのある癖を目にしてほぼ確信を持った。
後藤は席を立つと、その見学者のそばまでやってきて、しゃがんで小さく声をかけた。するとそのピエロはじっと後藤を見下ろし動かなくなった。目は仮面で見えないものの、力なく口が半開きになっているところからして相当の衝撃を受けていることが分かる。
後藤はその見学者と連れ立って外へ出て、トイレへと向かった。