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狂人、淫獣を作る
第1章 獲物
 ――こいつ。
 ――なんにも変わってない。
 ――相変わらずイライラさせられる。
 後藤はゆっくり仮面を外し、野田に素顔を見せた。
 「……た、た、タケちゃん……!?」
 ――なれなれしく人の名前呼ぶんじゃねえよ……
 ――それを大目に見てやってたのは高校生の間だけなんだよ!
 ――何だそのボサボサの寝グセのついた頭は?
 ――何だそのシワだらけのスーツとダサいネクタイは?
 ――お前みたいなやつが倶楽部に出入りしたいだと?……
 「ジュン、久しぶりだな」後藤はなんとか顔の筋肉を笑顔の形になるように動かして言った。
 「タケちゃん、ぜ、全然変わってないよ……!」
 「お前もな」
 「タケちゃんがいるなら、あ、安心だ……ここに来てから信じられないことの連続で、か、か、完全に舞い上がってしまってどうふるまっていいのか……」
 ――だったら来るんじゃねえよ! このバカが!
 「タケちゃんはベテランなのか? う、嬉しいよ、いろいろ教えてくれ……ま、ま、またあの頃と同じように、こ、こ、こ、今度は親友同士、え、SMについて腹を割って語ろう!」
 ――本当に腹割ってお前と付き合っていたと思ってんのか?
 ――心底めでたいヤツだな!
 ――親友だと?
 ――てめえが勝手に俺の後ろをチョロチョロつきまとっていただけじゃねえか。
 後藤は高校生当時、三年間偶然同じクラスになった野田とずっと一緒にいたのは事実だった。しかしそれは、成績では後藤にいつも及ばず、女にも全く縁がなく童貞のままで、後藤の使い走りを友情の証と勘違いして喜んで引き受けていた野田が、後藤にとって単に都合が良く、思春期の未熟なプライドを完全に満たしてくれる存在だったからだ。優越感を常に味わっていられるから表向き『親友』を演じていたに過ぎない。
 ――俺がお前なんかと腹割って話をするわけねえだろう!
 ――俺の代わりに今は誰か違うヤツのパシリでもやってんのか?
 ――四十にもなって本当はまだ童貞のままじゃねえのか?
 ――童貞がどうやって俺とSMを語るってんだよ!
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