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狂人、淫獣を作る
第1章 獲物
 熱燗を目の前ですする男――源の容姿は、奇妙だった。
 色が濃く大きめのサングラスをかけ、頭は僧侶のごとく剃り上げているが、顔中に火傷のようなただれた痕が痛々しく残っている。唇は左上に引きつったままで常に卑猥な笑みを浮かべているように見えるが、実際に笑っているわけではない。今はサングラスで隠しているが、目の片方は半開きのまま潰れており、もう片方もただれて閉じそうなまぶたから辛うじて細い視界を確保していた。体には首筋から肩にかけての一部以外に火傷はなさそうだが、後藤のように四十代後半にありがちな、腹を脂肪でたるませているような体ではなく、骨と皮しかないのではと思うほどギスギスに痩せていた。
 後藤が初めて源を見た時、その容姿に気味悪さを感じざるを得なかった。おおかた事故か何かで体を痛め、二度と健康な肉体に戻ることができず、時々こういった人目につかない温泉宿で湯治でも繰り返しているのだろう、と想像した。ところが三四日前にひょんなことで彼と言葉を交わした時、源はいたって健康で、見た目とは裏腹に気力と生命力にあふれていることを知った。投資家をやっていて、今はネットで全て事が済むので人に会う必要もほとんどなく、容姿はビジネスの障害にならないらしい。食欲も旺盛で酒にも強い。唇が引きつっているために発音にやや難があるものの、話す内容は明快で理路整然、頭の回転も速くユーモアもあり、物腰も柔らかい。さすがにサングラスを外した源の目を見た時は後藤も言葉を失ったが、今では源に親近感を覚えており、まるで古くからの友人であったかのような懐かしさすら感じていた。
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