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勤労少女
第1章
「……なあに? 五万ぽっちなのぉ?」
座卓に並べた一万円札五枚と詩緒莉を前に、母は不満そうに言った。
「もうちょっと増やせないの? サボってんじゃないの? ……あ! あんたまさか少し抜いてヘソクリなんかしてないでしょうね!」
「……してないよ」
母はふん、と曲がった鼻を鳴らすと札を集めてポケットにねじ込んだ。そしてそのまま畳の上に寝転んだ。
母の鼻が曲がっているのは、父の暴力で何度も骨を折ったためらしい。父のことは詩緒莉が物心付く前に失踪したので詳しくは知らない。
「お腹空いてんだから、早くご飯用意してよ」
母に言われて、詩緒莉は無言で立ち上がって台所へ向かった。向かった、と言っても同じ部屋なのだが。
そもそも、中学生はアルバイトであっても働くことは違法だ。まして――
詩緒莉は何で稼いできているか母に言ったことはないが、母はうすうす分かってるだろう。中学生が日給五万も稼げる仕事なんて『まとも』なはずがないし『限られて』いる。それでも母は、いつももっと稼ぎを増やせ、としか言わない。自分は日がな一日中家でごろごろしているくせに、だ。
言いたいことは山ほどある。でも、どうしても母に意見したり、反抗できない。母を前にすると体が勝手に萎縮するのだ。かといって、憎んでいるわけでもない。
詩緒莉は、作り置きしている惣菜を冷蔵庫から出してきたが、温めるための電子レンジはない。詩緒莉は炊飯器のスイッチを入れた。電気代がもったいないが、せめて白米くらいは温かい炊きたてが食べたいからだ。
食事が終わり後片付けすると、詩緒莉はさっさと自分の部屋へ行った。部屋といっても二部屋しかないうちの一部屋をふすまだけで仕切っただけだ。
詩緒莉は畳に敷かれた布団にもぐると泥のように眠った。