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勤労少女
第1章
 詩緒莉は音の方を見た。ふざけあっていた航太たちがいつの間にか詩緒莉の真横にいた。
 詩緒莉は自分の脈が一瞬速くなるのを感じた。
 「おいマジかよー! 破れちゃったじゃん!」
 よく見ると、航太の制服の上着の、裾の腰あたりのつなぎ目がほどけて大きく裂けてしまっている。ふざけてる間にどこかに引っ掛けてしまったのだろう。
 「まあいいや! 前からほつれかけてたからさ」
 詩緒莉は深呼吸して、航太の袖を引っ張った。
 航太がこっちを見た。
 「……上着、脱いで」詩緒莉は蚊の鳴くような、か細い声で言った。
 航太はしばらく呆然としていた。その間に詩緒莉はカバンから小さな箱を取り出した。航太は上着を脱いで詩緒莉に渡した。
 詩緒莉は箱を開けた。中には必要最小限の裁縫道具が入っていた。
 詩緒莉は上着の紺色に近い色の糸を選ぶと、針を出して手早く裂けた部分を縫っていった。
 あまりに手際が良い。
 尋常な速さではない。
 しかもミシンでも使ったかのような美しい縫い目だった。
 その手際に見とれる生徒も数人いた。
 しかしその『ショー』もすぐに終わった。あっという間に仕事が完成してしまったからだ。
 詩緒莉は、うつむき加減で無言で航太に上着を渡した。
 「ありがとう!」
 航太は無邪気に笑うと、上着を着た。
 詩緒莉は裁縫道具をカバンにしまうと、窓の外を見たままじっと動かなかった。
 まだ、顔が少し赤い感じがしていた。
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