この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
勤労少女
第1章
下校はいつも詩緒莉はひとりきりだった。
ひとりの方が自分のペースで歩けるし、喋りたくないのに喋らないといけないという煩わしさもない。
川沿いの河川敷の上にある道を歩くのが好きだ。家に帰るには大きく遠回りになるし、ほとんどの生徒はここを通らない。冬だから風が冷たいが、それでもここを歩くのが好きだった。
その時、背後から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。
詩緒莉が止まって振り向くと、航太が走ってきていた。
航太は息を切らしながら詩緒莉の前で止まって呼吸を整えると、
「はあ、はあ……弓野、今日はありがとう」と言った。
わざわざ下校途中に追いかけられてお礼をあらためて言われるなんて想像もしていなかったので、詩緒莉は戸惑って何を言っていいか分からなかった。
航太は、詩緒莉の目の前にミサンガを二つ差し出した。
「……あのさ、……その……俺さ、本当はさ……」
詩緒莉は、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じた。
「前から、お前のこと好きだったんだ」
詩緒莉は脳天を殴られたような、全身を感電させられたような、変な気分になった。
「俺と、その……付き合ってくれ」
しばらく、沈黙が流れた。
詩緒莉は、自分の顔が真っ赤になっているのが鏡がなくても分かった。
「……えと……あたし、みたいな……地味な女子……なのに?」
詩緒莉はもっとましなことが言えないのかと自分が少し嫌になった。
航太はゆっくりうなずいた。
詩緒莉は航太の手からミサンガをひとつ取り、自分の腕にはめた。
「……いいよ」
「マジ!? マジで!?」航太はもうひとつのミサンガを彼の腕にはめながら言った。
こんなに嬉しそうな顔をする航太を見たのは、詩緒莉は初めてだった。
――でも、中学生で付き合うって、何したらいいんだろ……?
ふと、詩緒莉はそんなことを考えていた。
航太と別れたあと、詩緒莉はいつもの喫茶店に向かった。
道中、何度も袖をまくって航太にもらったミサンガを見た。
つまんだり、なでたり、匂いを嗅いだりしてみた。
そして無意識に顔を赤らめ、漏れ出るほほ笑みを止められなかった。