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彼依存
第11章 記憶の一部


「お前のせいで子供が苦しむんだ
そんな事も分からないなら
母親をやめてしまえ
代わりに俺が育てる」


お父さんは電話を握りしめ
落ち着きなく部屋を歩き回る。
時折頭を掻き毟りながら…



「はじめに言ったじゃないか
子供の幸せを一番に考えろと
何故自分の子を愛せないんだ」



きっと前妻との間の子の話だ…
聞いていれば嫌でも分かってしまう。
お母さんは何気ない顔で
パートに行く準備を始めた…

お母さんもきっとその場に居づらい…
前妻との揉め事なんて聞きたくない…
何より怒ってる姿は見たくないよね…



「藍、お母さん仕事行くから
お父さんの電話終わったら
一緒にいてあげてね」



優しく微笑むお母さんは
私の心中とは真逆だったみたい。
あんなに優しく微笑むんだから…



「ん、分かった…」



廊下から中に入れない私を
お父さんは申し訳なさそうに呼んだ。
とても弱々しい声で…



「遅くなったけど
映画見に行ってくれるかな?」



「いいよ
急いで用意してくるね」



先ほど脱いだ服を手に取り
髪を整えた私は足早に玄関へと
足を進めた。
しょうがないって…思いながらも
楽しみだったんだから…




「いってきまぁす」




お手伝いさんに手を振り
大きな門をくぐりぬけ
私ははじめてお父さんと2人で出掛けた。

青空の下…
お父さんの表情は晴れない…
楽しいはずなのに…
足取りは重い…
話したい事は山ほどあるのに…
口を開けない…




「ごめんね」




何に対してか分からなかったけど…
分からないなりに
私はお父さんを許してあげたの。
満面の笑みで…




「いいよっ」




だって私が出来る事って
これくらいしかないじゃない。
何も知らないふりして
ただ優しく受け止めてあげる…
それが私ができる事でしょ?




「お母さんに似て優しい子だね」




大きな手の平は
いつものように私の頭を撫でた…




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