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彼依存
第16章 理想の家族
家を出て数年経った頃
あいつは高校生になっていた。
久しぶりに家に帰ってみたら
制服姿のままキッチンに立ち
「久しぶりね、お兄ちゃん」
そう静かに笑った。
年に数回しか会わなくても
こうやって微笑みかけてくる。
昔俺が言った事を忘れているかのように…
「何か、飲む?苺ミルクあるよ
お父さんがね苺貰ったみたいでね
ミキサーに入れて作るんだ」
「いらない」
「っ、そっか…
なら飲みたくなったら言ってね?
沢山あるから皆で飲もうね」
"皆"もうあいつは理想の家族を
自らのものにし幸せオーラ全開で
俺よりもこの家に馴染んでいる…
これじゃ、まるで…
「客みたいだな」
「え?何か言った?」
不思議そうな顔でキッチンから顔を出し
俺に嫌味を再度言わせようとする。
なんだろうな、もう何年も前の事なのに
今でも腑に落ないんだよ。
いい加減大人になったと思ったのに
こいつの顔を見れば
昔の嫌な俺が出てきてしまう…
25歳になってもなお引きずるのか。
母さんのあの表情を…
自分の居場所を…
おかしいと分かっていながらも
その思いは未だに消える事はないんだ…
「父さんは?」
「今日は会議なんだって
お母さんも帰り遅いみたいだし
私しかいないよ?」
「そっ、ならまた居る時に来る」
帰ろうと立ち上がる俺の手を引き
捨て犬みたいな下がり眉で
何て言うかと思えば…
「いつも1人でご飯食べてるの?
作るから…食べてってよ
2人の方が美味しいよ?」
馬鹿なのかと思った。
無愛想で冷たくあしらう俺に
何優しくしようとしてんの?
「何?同情してくれるんだ」
「違っ、そんなんじゃ…ない」
ほら、泣けよ…
辛そうにしてみろよ…
で、悪者にしたらいいだろ?
こいつももう昔みたいにガキじゃない。
俺が言う嫌味だって分かっている
理解できたなら傷付くだろうと…
思ったのにな…
「ご飯…食べよ?」
困ったように首を傾け笑いながら
掴んだ手を離さずに言う。
同情とかじゃない
きっと素直に言っている…
余計に質が悪い…