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彼依存
第16章 理想の家族
「苺ミルクはね
ミキサーに苺と蜂蜜、牛乳を入れて
隠し味に檸檬を少し入れるんだよ
甘酸っぱいんだ、でもね…
初恋の味だって漫画に書いてあって
試しに作ったらキュンってしたの。
だから、好きな人とキスする時は
苺ミルクの味がいいな、って」
「初めてのキスが苺ミルク?
じゃ、相手にも飲んでもらわなきゃね」
「あ、そうだよね…
苺ミルク好きな彼だといいな」
リビングで明るく語る親子。
ミキサーの音が止まれば
甘い香りが部屋に広がり
出来上がりを家中に報せた。
可愛らしいグラスに少し果肉を残した
淡いピンクのミルクが揺れながら
こちらに近づいてくる…
「はい、お兄ちゃんも飲んでね」
父親に、あいつの母親に、俺に
満足気にリビングに運び配るあいつは
丁寧にコースターまでひいている。
制服にエプロンをかけ
鼻歌混じりにキッチンに戻り
グラス同様可愛らしい皿に苺を盛り
リビングに戻ってきた。
「どーぞ」
自分がソファに腰を下ろせば
満面の笑で両手を広げた。
そんなあいつを直視できないのは
心の何処かで…
罪悪感なるものを感じているからか…
いい気味だと笑ってやるつもりが
何も変わらない態度のこいつに
戸惑っているのか…
「ね、美味しいでしょ?
この作り方ね料理アプリで
1位だったんだ間違い無い味だよ」
興奮気味に父親の肩を叩き
味の感想を催促したり
母親におかわりを勧めたり忙しい。
自分はまだ一度も口にしてないのに…
「藍も食べなさいよ?
せっかくの苺でしょ」
母親の手から苺を受け取り口に運ぶ
少し口元から垂れた苺の赤が
あの日の染みに被って見えた…
何も知らない父親とこいつの母親は
理想の家族を続けるこいつに
何があったのかなんて予想もしない。
知っているのは…
俺とこいつだけだ。
「もう、グチャグチャだな」
ボソッと呟く声に反応する。
「あ、潰しすぎたかな?
もっと実残した方がよかった?」
違うよ、お前の理想の家族は
隠し事してる時点で壊れてるんだよ。
俺とお前しか知らない秘密で
すぐにでも壊せるんだって。
お前が言わずに、耐えててもな?
簡単にいつでも…壊せるんだ…
「いや、ちょうどいいよ」
皿から掴んだ苺。
あの日のように赤い染みを…
もっと残してやるから…