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彼依存
第16章 理想の家族




「今日父さんたちは?」


それから俺は何も言って来ないのを
いい事に家に寄るようになった。
俺が家に寄れば態度に出さなくても
心の中で家族を壊さないでと
思っているに違いない。
いつでも大切なものを奪える優越感…
俺は失うものなんてないんだから
何も怖いものはない。



「今日も2人遅いみたいだよ」



前と変わらず首を傾けヘラっと笑う。
キッチンからする夕飯の香り
パタパタと鳴り響くスリッパの音
そして、歌を口ずさむ…



「夕飯、食べていくよね?」



おたま片手に"シチューだよ"と言い
洒落たランチョンマットを用意する。
相変わらず手の凝った事をすると
関心してしまう程に
食卓は華やかに飾られていく。
誰がやれと言った訳でもないのに
手料理を作り、せっせと動き
まるでそれを楽しむかのように…



黙って食卓に座っていれば
あっという間にか出来上がった皿が
次々と運ばれてくる。
あんな仕打ちしたのにも関わらず
無かったように振舞うこいつは
実は傷なんか負ってないんじゃないか?



「さっ、食べよっ」



"いただきます"と上機嫌に手を合わせ
湯気がたつ出来上がったばかりの
シチューにスプーンを入れ頬に手を当て



「美味しっ
やっぱり一人で食べるよりいいね」



なんて言ってるんだから…
きっと俺との事を無かった事にしている。
それならもう一度…
味わわせてやればいい…


無かった事に出来ないように
体に教え込んでやればいい。




「本当だな、美味しいよ」



俺はこいつの泣き顔を見たい。




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