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彼依存
第16章 理想の家族
「最近は良く家に顔出すわね」
にこやかに話かけてくる
あいつの母親は何も知らない。
「いっそ家に帰ってきたらいい」
そいつの肩をふわり抱き寄せ
いいい家庭を魅せる父親も
勿論何も知らない。
「今日はね、鍋にしたよ?」
屈託の無いまだ幼い表情の
こいつと俺だけが知っている。
頻繁に帰るようになった俺の私物も
少しずつ部屋に置かれるようになり
今までの時間をうめるように
4人で食卓を囲む事が増えてきた。
皆笑ってるけどさ
知らないから笑ってられるんだ
俺はこいつを泣かせ
傷付ける為に此処にきている。
そして…
最悪の結末を迎えるために
今家族ごっこをしてやってるんだ。
「そうだね、帰ってこようかな」
しおらしく言う俺は
よっぽど演技が上手いのか
親二人は疑う事をしない。
最後自分たちがどうなるのかも知らずに。
食事を終えたリビングには
珈琲を飲みながら寛ぐ二人。
先程まで鍋をしていた為か
室内は暖かくほのかに香りも残っている
一見、はたから見れば理想の家族。
「手伝うよ」
一人キッチンに立ち洗い物をする藍。
横に立ち声をかければ
頬を紅く染め目線を反らした…
スポンジを握る手に力を入れ
いかにも警戒している態度をとる。
「あ、ありが…と」
「思い出してんの?
ここで漏らした事」
「っ、…皆居る…から」
全く進んでいかない洗い物
流水音だけが響く中
泡はちっとも流れていかないでいた。