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彼依存
第16章 理想の家族
いつだったか部屋で泣いている声がした。
電話片手に涙を流す姿が目に浮かぶ。
啜り泣き時折強くなる口調。
何が原因か分からないが相手は雅に違いない…
泣くなよ…
そんな台詞すら言ってやれない。
目を腫らしリビングにきた藍は
珍しく携帯を部屋に置いてきた様で
冷たいタオルを目に当てながら
母親の横で弱々しく身を縮めていた。
「彼と喧嘩でもしたの?」
「うん」
「仲直りしてないの?」
「うん」
単調なやり取りが続き
藍はそのままソファで眠ってしまっていた。
優しく頭に触れながら
我が娘を愛おしそうに見つめる母親。
その場に横にしてやりひざ掛けをかける…
俺はもう泣かせてはいけない。
触れる事すら許されない。
二度と傷つけてはいけない。
ただ、見て見ぬふりして部屋に戻る…
「お兄ちゃん、勉強…教えて…」
起きてきた藍は遠慮がちに部屋に来た。
腫れが少し引いたその目で…
いつもの様な笑顔は消えて…
「あぁ、いいよ」
それを笑顔で迎えるのが
俺に出来る最大限の優しさだ。
兄として唯一してやれる事。
「じゃ、シャワー浴びたら来るね」
力なく笑って引き返す藍を
本当は抱きしめてやりたかった…
静かに閉まる扉を見つめたままで…