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後宮艶夜*スキャンダル~鳥籠の姫君は月夜に啼く~
第16章 番外編【美しき皇太后と若き皇帝】
 紫蘭は笑って若き皇帝-永徳帝を見た。
「いつも世捨て人のこの母をお気遣い下さり、ありがとうございます」
 良人徳治帝が亡くなって久しい。あれからもう十四年も経つというのに、永徳帝はいまだに血の繋がらない母である紫蘭を気遣い折に触れては訪ねてきてくれる。
「何を仰せになるのです。子として母に孝養を尽くすのは当然のことです」
 永徳帝はまだ少年の面影を残す溌剌とした面に笑みを浮かべた。
 そう、亡き良人と生き写しのこの息子がたった一つ違うのは、生まれながらに皇帝であり、跡継ぎたる皇子として大切に育てられたという点だ。その点、彼の父は日陰の皇子として身分の低い生母を持ち、何度も正妻である皇后から生命を狙われるという悲惨な幼少期を過ごした。そのせいか、徳治帝は常に整った面には何かしらの翳りを滲ませていた。
 この若い皇帝にそんな翳りはみじんもない。
「それはそうと、陛下。皇子さまや黄貴妃はお健やかにされいますか?」
 若い皇帝にはつい三ヶ月ほど前、初めての皇子が誕生したばかりである。
 初めての我が子と愛妃のことを持ち出され、皇帝の整った面がうっすら染まった。
「はい、お陰様で両人とも健やかに過ごしております。義母上さまには玉寧にはお心まこもったお見舞い品を頂き、当人も感謝しておりました」
 紫蘭は微笑んだ。
「あの香草茶は産後に飲むと身体によろしいのよ」
「産後といえば、翠蘭はちゃんとやっているでしょうかね」
 翠蘭公主、紫蘭と先帝との間の一人娘、つまり皇帝には異母妹に当たる。翠蘭は去年、十三歳で海を渡った大国栄に嫁いでいった。
 現在は栄国の世継ぎの王太子の正妃として過ごしている。その翠蘭が嫁いで早々に懐妊したと知らせがあったのは今年に入ってまもなくだった。
 
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