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後宮艶夜*スキャンダル~鳥籠の姫君は月夜に啼く~
第16章 番外編【美しき皇太后と若き皇帝】
と、皇帝は突如として思いもかけないことを言った。
「義母上、私が何故、玉寧ばかりを寝所に呼ぶか、皆が何と言っているかをご存じですか?」
その問いは紫蘭を絶句させた。もちろん、世捨て人の元妃たちばかりが住まうここにも後宮の噂は届いてくる。言葉を失った紫蘭を皇帝は強い眼で見つめた。
「玉寧の容貌が義母上にそっくりだから、私が玉寧だけを愛するのだと皆は噂しています」
紫蘭は 心もち強ばった笑みを返すしかなかった。
「そう? こんな年寄りにはもう後宮の噂なんて興味もありませんからね。そんな噂があることも知らなかったわ」
ここは知らないふりを通すのがいちばんだ。紫蘭は依然として笑みを湛えたまま、皇帝を見た。幼いときからずっと陰ながらその成長と幸せを見守ってきた、我が息子同然の皇帝を。
皇帝はふっと笑い、視線を紫蘭から牡丹に移す。
「私が愛でているのは玉寧の容姿だけではない。あれは心優しく、いつでも笑っている。私はあの女が声を荒げて宮女を叱っているのを見たことがありません。玉寧が義母上に似ているのは姿だけではなく心映えなのです。だから、私はあの女を愛した」
「母親として息子に慕われるのは嬉しいこと。ですが、陛下が黄貴妃を大切に思し召すなら、尚更、先刻も申し上げたように、この母の忠告をお守りになって。嫉妬は人を鬼にも変えます。あなたが黄貴妃ばかりを愛することがいずれ大切な黄貴妃自身を傷つけることかないように」
「判りました。義母上のご忠告、肝に銘じます」
皇帝は今度は紫蘭の瞳をしっかりと見つめて頷いた。
先刻の思い詰めたような光はもうその漆黒の瞳から消えている。紫蘭は微笑みながら言った。
「さあ、部屋に戻って陛下がお持ち下さったという石榴茶を頂きましょう」
「義母上、私が何故、玉寧ばかりを寝所に呼ぶか、皆が何と言っているかをご存じですか?」
その問いは紫蘭を絶句させた。もちろん、世捨て人の元妃たちばかりが住まうここにも後宮の噂は届いてくる。言葉を失った紫蘭を皇帝は強い眼で見つめた。
「玉寧の容貌が義母上にそっくりだから、私が玉寧だけを愛するのだと皆は噂しています」
紫蘭は 心もち強ばった笑みを返すしかなかった。
「そう? こんな年寄りにはもう後宮の噂なんて興味もありませんからね。そんな噂があることも知らなかったわ」
ここは知らないふりを通すのがいちばんだ。紫蘭は依然として笑みを湛えたまま、皇帝を見た。幼いときからずっと陰ながらその成長と幸せを見守ってきた、我が息子同然の皇帝を。
皇帝はふっと笑い、視線を紫蘭から牡丹に移す。
「私が愛でているのは玉寧の容姿だけではない。あれは心優しく、いつでも笑っている。私はあの女が声を荒げて宮女を叱っているのを見たことがありません。玉寧が義母上に似ているのは姿だけではなく心映えなのです。だから、私はあの女を愛した」
「母親として息子に慕われるのは嬉しいこと。ですが、陛下が黄貴妃を大切に思し召すなら、尚更、先刻も申し上げたように、この母の忠告をお守りになって。嫉妬は人を鬼にも変えます。あなたが黄貴妃ばかりを愛することがいずれ大切な黄貴妃自身を傷つけることかないように」
「判りました。義母上のご忠告、肝に銘じます」
皇帝は今度は紫蘭の瞳をしっかりと見つめて頷いた。
先刻の思い詰めたような光はもうその漆黒の瞳から消えている。紫蘭は微笑みながら言った。
「さあ、部屋に戻って陛下がお持ち下さったという石榴茶を頂きましょう」