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後宮艶夜*スキャンダル~鳥籠の姫君は月夜に啼く~
第16章 番外編【美しき皇太后と若き皇帝】
「義母上は私がここに来てはご迷惑なのですか?」
 哀しげに揺れる瞳は皇帝が幼いときと変わらない。何か子どもらしい悪戯をして紫蘭に叱られていたときそのままだった。
 紫蘭は心が刺されるように痛んだ。
「そのようなことはございません。しかし、宮殿には陛下の訪れを待ちわびる大勢の妃たちもおります。私のようなおばあちゃんのところにおいでになる前に、その妃たちの元にお行きあそばせ」
 年長者らしくたしなめるように言うと、皇帝は肩をすくめた。
「私が玉寧だけを召すので、他の妃たちは面白くないのですよ」
「そうですね。やはり女は神ではないのですから。生身の人間であれば、良人に自分を見て欲しいという欲があるのは当たり前です。陛下が黄貴妃をお気に入りなのは知っていますが、やはり、一人の妃にだけ寵愛が集中するのは望ましくありませんわ」
 皇帝は小首を傾げて紫蘭を見た。
「私にここに来るのを止めて、後宮の他の妃たちのところに行けと?」
 今度は紫蘭ははっきりと頷いた。
「あなたが愛する黄貴妃のためにも、皇子さまのためにも、そうなさるべきです。後宮でただ一人、陛下の寵愛を得るということは光栄なことでもあると同時に、他の妃たちの嫉妬を買うことにもなるのですからね」
「義母上もそうだったのですか? 父上もかつては義母上だけを愛しておられた」
 物問いたげな皇帝の顔から紫蘭は視線をそらす。この若い皇帝の生母苑氏もかつては徳治帝の寵愛を奪った紫蘭を憎んでいた。
 しかし、それももう遠い昔のことだ。
「昔のことはどうでも良いのです、陛下、大切なのはこれからでしてよ。今なら私は判るのです。女だって心はあるから、本当は自分だけを見て貰いたい。でも、後宮の妃たちは良人たる皇帝陛下の愛を分け合うしか、すべはない。あなたはその女たちの心の苦しさや切なさを理解しあげることのできる良人になって下さいね。これは同じ女としての母からお願いです」
 
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