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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章
「ええと、お姉さん、来てくださってありがとうございます。バタバタで何もお構い出来ませんが、どうぞ楽しんで」
改まってぺこりとお辞儀をした義妹に、義姉は「ええ、ありがとう。頑張ってね」と暖かな笑みを向けてくれて。
「じゃあ、お兄ちゃん。先に行くね……」
ちらりとそちらに視線を向けそう言えば、
「ああ、今シーズン最後だから、めいいっぱい楽しんでな」
息子のお尻をぽんぽんあやしながら、匠海はしっかりとそう言い含めた。
「急げ! 急げ!」と楽しそうなマリアの後ろを追い駆けながらも、全く楽しくないヴィヴィの胸の中に昏い念が去来する。
(なんで? なんでわざわざ “ここ” に来るの? ……っ お姉さんは、いいじゃない。いつも、ずっと、ずっとっ お兄ちゃんを独占してるじゃない……っ)
見当違いな当て擦りをする度に、惨めさと虚しさが込み上げる。
何に対する怒り?
誰に対する憤り?
何をどう転んでも、自分には義姉と兄の様な未来は無いのに。
『ヴィー! 俺の女神! 結婚してくれっ!!』
南仏の異国でされた下らない求婚が、何故かふと頭を過ぎる。
あの匠海が瞳子に対し、どんなふうにプロポーズをしたのだろうか?
そんなどうでもよい事が、今更ながらに気になった。
そして、何故だろう。
不倫を始めて最初の頃に感じていた義姉に対する罪悪感が、今はその一遍すら感じられないのだ。
不義に慣れたのか。
先の無い二人の未来を達観したのか。
二度も道を踏み外し、善悪すら判らなくなったのか――
己を責めるように収まる気配のない耳鳴りを握り潰すには、細い両手で耳を握り込むしかなかった。