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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第17章
「………………」
なんで?
どうして “ここ” に義姉と甥までいるのだ?
そこまで思って、そしてぎくりと強張る小さな顔。
まさか。
まさか、兄夫婦は揃ってここに宿泊し。
そして匠海は、それに罪悪感すら持たずに私に声をかけたのか――?
予期せず目の前に現れた人物に、一瞬耳が詰まった感覚に襲われ、そして徐々に耳鳴りが広がる。
き――――ん、と静かに細く鳴り響くそれ越し、それでも兄夫婦の会話がぼやけて届いた。
「ふふ、驚かせてごめんなさいね。今シーズン最後の公式戦だから、やっぱり現地で観たくて来ちゃったの」
「……なんだ、来るなら言えよ」
一瞬、興を削がれた表情を浮かべた端正な顔は、すぐにそれを打ち消した。
「急だったのよ、今日の予定が急にキャンセルになってね。それで五十嵐さんに聞いたら、匠海さんがこちらに泊まっていると伺ったの。なら一緒に行こうと思って」
「? 一緒に行くって、チケットは?」
「ふふ。もちろん、お母様にお願いしたの。駄目もとだったけれど、取れて良かったわ」
二人の会話を耳では拾いながらも固まっていたヴィヴィを、現実に引き戻したのはマリアだった、
「ちょっと! お姉さん、ちょー美人だね! まさに美男美女……。くぅうう~~っ 私めの出る幕は、ございませぬなあっ」
吹き込まれた何故か時代劇じみた耳打ちに、何とか苦笑したヴィヴィの目の前、息子が重いのか? 瞳子が匠海に愛息を渡していた。
「ほら、パパですよ~~」
「ん? 瞳吾、ごきげんだなぁ」
ひょいと息子を抱っこした匠海の目尻に、薄らと刻まれた笑い皺。
そしてその中の愛おしさを隠そうともしない灰色の双眸に、ヴィヴィはさっと視線を落とす。
「あら、マリアにヴィヴィ。こんなところにいたのね! ほら、急がないとバス出ちゃうわよ」
どうやら二人を探していたらしいスケート連盟の女性に促され腕時計を確認すれば、オフィシャルバス発車まで二分を切っていた。
「あ……、すみませんっ」とヴィヴィ。
「凛果とアルフレッドは、もうバス乗ってるから、急いで!」
「すぐ行きま~~す!」と、マリア。