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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章
ヴィヴィの返事を待ち佇む義姉の出で立ちは、黒ブラウスのとろみとハイウェスト・レザースカートのシャープな質感が、仕事の出来る女感の中にも凛とした色香を演出していて。
パーカーにショートパンツという隙だらけの部屋着姿の自分に、一瞬尻込みしてしまいそうになる。
しかし忙しい義姉が電話で用向きを伝えるのでは無く、わざわざ出向いた理由に心当たりがありまくるヴィヴィは、「どうぞ」と私室への入室を促した。
今から一週間程前――夫と義妹が二人して、同じ日取りで国外に出たのだ。
いくら「妻の前でも妹への溺愛ぶりを隠さない」程に仲睦まじい兄妹でも、そろそろ「何かおかしい」と感付かれても不思議はなかった。
春らしいミントグリーンのパンプスを纏った脚で躊躇無くプラーベートスペースに踏み込み、手にしていたジャケットとバッグを白いL字ソファーに置いた瞳子。
そして反対の手で持っていた “それ” を抱え直すと、やおら妹を振り返った。
「ヴィヴィちゃん、2019-2020年のシーズンに『ペール・ギュント』やったでしょう?」
「え……? あ……、はい」
唐突に寄越された問いに、ヴィヴィは一瞬きょとんとし、少し狼狽えて頷いた。
(確かに、そう、だけれど……。どうして? 今、いきなり……?)
大きな瞳を瞬かせる義妹に、義姉は的確に答えをくれる。
「ふふ。私、あの戯曲が好きでね、この薔薇もよく仕事で使うのよ」
「ああ……。そう、なんですか」
今から仕事先に向かうのだろうか?
英字新聞で無造作に包まれた花束から一本抜き取った瞳子は、高い鼻に近づけるとその芳香にうっとりと瞳を細める。
花びらの端にかすかに薄紅色が滲む、薄黄色の薔薇。
己のプログラムの髪飾りとしても使っていた “それ” の名は、まさしく『ペール・ギュント』だった。
「ヴィヴィちゃんが滑った『山の魔王の宮殿にて』も素敵だけれど、欲を言うならば、私は是非あの曲でも滑って欲しかったわね」
手にしていた一本をすっと差し出してくる義姉に、ヴィヴィは手にしていたグラスを近くの棚に置くと、受け取りながら尋ねる。
「どれ、ですか?」