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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章

てっきり兄妹の不道徳な関係を詰りに来たのだと思ったのに。

だから上記の歌の話題を持ち出したのではないのか?

“貴方は、きっと私の元に帰ってくる”――と。

夫の不義の相手に対する態度とは思えぬ妻の様子に、ヴィヴィは前髪の影で微かに眉を顰めた。

「互いの私生活に干渉し合わない。けれど、子供達の為に家庭を守り、育み、安らげる居場所を確保する――そういう契約を結婚の際に結んだのだもの」

「………………」

その義姉の言葉で、永く咽喉につかえていたものがようやく腑に落ちた。


『ヴィクトリアには、篠宮の跡取りを産ませられないだろう?』 

『お前は俺の子供を宿す事が出来ない。だから他の女と作った』


匠海の裏切りを知り理由を正したとき、逆に責められる様に告げられた真実。

あの時の兄は、決して嘘を吐いてなどいなかったのだ。

瞳子と肉体関係を持ったのも、籍を入れ家庭の形を創ったのも。

そして、その後に不倫関係を築いたのも、その理由は一つ。

“子を成す” という、互いの利害関係の為だけに、偽装家族を持ったのだ。

だが、ならば、

ならば、義姉は一体何をしに此処へ――?

相手の不義に目をつぶるというのなら、どうして私に会いに来たのだ?

ヴィヴィが持ったその当然の疑問に、瞳子から至極まっとうな答えが与えられた。

「でもね、ヴィヴィちゃん。 “妹は駄目” よ――」

「―――っ」

「妹は――私の許容範囲を超えるわ」

そう言って微笑んだ義姉の顔にはどこにも、兄に対する執着を認める事は出来無かった。

夫の不倫相手が、血も戸籍も繋がった実の妹であったという事実――

もし万が一、それが世間に公になれば、

華道家としてメディアにも顔を知られている瞳子は、二重の醜聞にさらされ。

篠宮証券の次期CEOである匠海には、経済界に身を置けないほどの致命的な傷となり。

そして、当事者のヴィヴィは言わずもがな。

その双子の兄であるクリスも色眼鏡で見られ、フィギュア選手として人前に立て無い事になりかねない。

仮に匠海の不倫相手が一般女性であれば、皆が受ける傷は最小限となるのだろうに。

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