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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章
義理の姉、かつ、不倫相手の正妻との対話は、たった数分で終わった。
罵倒されることも、
詰られることも、
貶められることも無く。
愚かな兄妹が犯した獣の如き罪悪を、淡々と諭すに留めた大人の女。
「………………」
完敗、だ。
もう何一つ、あの人に勝るところが己の中に見当たらない。
パラオ旅行の一週間前「シーズン最後となる試合を観に来た」という瞳子を目にした時、何となく察した。
私達の関係に気付いている――と。
倫理に背くこと。
性善説に基づく社会的道義に背くこと。
大切な人々を裏切り続けること。
兄との不倫関係が始まってから、二重の意味でそれらを行ってきた。
そんな兄妹に兄嫁はいつしか勘付き、あの日、自ら牽制をしたというのに。
それでも恥の上塗りと不倫旅行を強行した二人に、さすがに業を煮やしたのだろう。
ずっと握り締めていた薔薇がヴィヴィが発する熱に弱ったように見え、
近くに置いていたグラスに活ければ、ガスの抜けきった水に沈んだライムが、妙に萎れて見えた。
『私、人間になりたいなあ』
昨シーズンのFS――饗応夫人のプロを滑り納め、心の中に芽生えたその感情。
本能の赴くままに欲しがり、衝動のままに行動する。
そんな「理性を持たぬ動物」でしかない今の己の姿に、あの日、自分自身が辟易しているのに気付いてしまった。
匠海との交わりは、あまりにも甘露で、美味で、唯一無二のもので。
けれど身も心も深く繋がりながらも、見えない足枷で雁字搦めになり、身動きが取れなくなっていく。
本能と理性の板挟みになり生まれた “己の矛盾” に向き合う為、今、私がやらなければならぬこと。
それは何なのか――?
いとも易く答えは出てくるのに、理性を持って衝動を制御出来ず、成すべき事から逃げていた自分の弱さ。
その狡さを第三者によって目の前に突き付けられ、ようやく今になって噛み締められた。
「……ちゃんと、私の手で、終わりにします……」
とうに目の前から辞した相手にそう答えたヴィヴィは薔薇に背を向け、地に足の着いた足取りで自身の書斎へと消えて行った。