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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章
義姉である瞳子が訪ねてきた翌日――4月25日(金)
松濤の屋敷では明日に日本を発つ双子を囲み、家族でのディナーの席が持たれ。
宴もたけなわとなった頃合い、妹から届いたLINEに気付いた兄は、うとうとし始めた匠斗を執事・五十嵐に託し、ヴィヴィの私室を訪ねてきた。
「お兄ちゃんと別れる」
藪から棒に、きっぱりと要件を伝えた妹に対し「話があるから部屋に来て」と呼び出された兄は「え?」と返すだけで、まるで状況を呑み込めていないように見えた。
細く高い鼻から吸い込んだ空気の助けを借り、何とか勢いを得て発した “離別の言葉” が、再度 薄い唇から放たれる。
「お兄ちゃんと別れる。もう終わりにする」
「ヴィクトリア……? どうした? 突然、何を言って――」
呼び出したのに席も勧めぬ無作法なヴィヴィに、匠海は一瞬 “駄々をこねる妹” に苦笑するそぶりを見せた。
だがしかし、張り詰めた空気を感じたらしい兄の引き締まった頬は緩むこと無く、2mほど離れた場所に立つヴィヴィを不可解な面持ちで見つめ返してくる。
「不倫関係を解消する。兄妹としても縁を切る。もう金輪際、貴方の前には現れない」
これ程までに凍てついた声を発せられるのだと、我ながら初めて知った。
「別れて下さい」ではなく「別れる」
相手の意思を尊重するつもりがまるでない妹の断言に、ようやく状況を理解したらしい兄は息を詰まらせた。
「―――っ ちょ、ちょっと待て。何故だ? 何でそんなにいきなり!?」
珍しくどもる匠海にも、ヴィヴィは静かに首を振るばかり。
「いきなりじゃない。今シーズンの間、ずっと考えてた」
「今シーズン……?」
「もう偽り続けるのに疲れた。周りにも、自分にも」
己の中に生じた矛盾と向き合えたのに、自分の心に嘘を吐き、それを見ないふりをするのも。
「え?」
「私、気付いたの。お兄ちゃんと ずるずる続けるの、正直しんどい。重荷でしかない」
「………………」