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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第18章
妹が吐露した直球の心情に、受け止めるべき側の兄はというと、顔を強張らせ文字通り絶句していた。
ヴィヴィが愛してやまなかった切れ長の瞳は、いくばくか時を止めたように硬直していたが、しばらくすると左右に振れ。
そして、一部始終を静黙の中で見届けていたヴィヴィに対し、匠海は急場しのぎにしか見えない打開策を提示してきた。
「ならば……、じゃあ、分かったよ。うん。一旦、距離を置こう」
「え?」
「今はヴィクトリアにばかり我慢や無理をさせているだろう? だから疲れちゃったんだよな?」
大きめの唇から零れる言葉はどこか、己に言い聞かせているようにも聞こえる。
「だから、一旦関係を解消しよう。お互い少し冷静になる期間を持とう。それで――」
そこで言葉を区切った匠海は、こつりと小さな靴音を立て、二人の間合いを詰めてきた。
まるで己の表情を間近で見ろとでも言う様に、妹の少し左側に立ちはだかった兄。
すぐ目の前にあるのは、オリエンタルの中に優雅さを兼ね備えた端正な美貌。
やや左側のそれを目に止めながらも、ヴィヴィの脳裏には依然聞きかじった知識が過ぎる。
感情を司る右脳の影響で、左側の顔の方が表情が豊か。
したがって、意中の相手に告白する際は、左側の素直な表情を見せるのが好ましく。
更に、その反対――別れたい相手には、右側の理性的な表情を見せるのが望ましい。
別れを切り出したこの場で匠海が見せたのは、意識的にか無意識にか、左の素顔だった。
痛いほどの沈黙に届いた、ごくりと何かを飲み下す音。
そして、続けて発せられた言葉は、
「それで、離れている間、俺を待っていてくれないか?」
「…………? 待つ? 何を?」
提案の意図を測り兼ね、皮膚の薄い眉間を寄せた妹だったが、次に兄から語られた真実には大いに動揺した。
「そもそも、瞳子とは「第二子が満三歳を迎えれば離婚」という契約だった」
「……え……?」
(何……? え? ちょっと、待って……?)