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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第19章
「ああ、日本を基盤とする事業を、さらに英国に――兼ねては欧州で広げようというヴィジョンは確かにある。それは何年も前から調整を続けている。だが――」
「…………?」
「今 何故か、匠海が急速にそれらを推し進めようとしていて。……その強引な手法に、慎重派から反発が出始めている」
「………………」
「お前達双子のいずれも事業に興味は無い様だし、今のところ周りに匠海以上にキレる者も現れていない。だから行く行くは、匠海に事業を全て明け渡す心づもりで入る」
「うん」
「だから、あの子のやりたいようにやるのはいい。ただ――変革にはスピードも必要だが、併せて、立ち止まって辺りを再確認できる冷静さも必要だ」
そこまで慎重に語り深く嘆息した父は、やれやれとでも言いたげに金の頭を横に振る。
「しかし、今の匠海にはそれらが欠けている……。いや、もはや何かに憑りつかれていると言っても過言では無い位、周りの意見に耳を貸そうとしない……。正直、親の自分がフォロー仕切れないほど、役員達の間で不穏な動きが出てきている」
「………………」
仕事を一切家に持ち込まないのがポリーシーであった筈の父。
そんな彼が世界で有数の大企業の内情を、たかだが23歳の小娘に話すだなんて、以前ならば信じられなかった。
「なあ、ヴィヴィ。何か知らないか? 匠海はどうしてそれほどまでに、英国に固執しているのだろう」
「え?」
「あの子がここまでこだわるのは、仕事に於いては初めてなんだよ。……もしかすると、イギリスという土地に意味がるのかも……」
「………………」
カメラの陰で咄嗟に握ってしまったのは、己の右手首。
時間が経てば肉体の傷は癒える、けれど――
(いや……。まさか……)
父の推測から導き出した憶測を、娘は奥歯を噛みしめながら否定する。
英国に固執する意味が、万が一 “自分” にあるとして。
でも、それでも、兄は妹と躰の関係を持つ前から “欧州での篠宮の発展” を口にしていたのではないか?
「加えて、瞳子さんと離婚協議に入ったらしくて」
「……は……?」
いきなり飛んだ話題に、ヴィヴィは当事者にも関わらず、思わず間抜けな声を上げてしまった。
(は……? 離婚……?)