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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
なんだろう?
「長年蓄積してきた苦悩・葛藤・憤怒」の脳領域が、それらから解放されたというか。
脳の奥深く(欲望を司る大脳辺縁系?)の怨念?が昇華したとでもいうのか。
まるで頭蓋骨の中が「がらんどう」になったかのようで、たまに体のバランスが取れなくなるくらい身軽で、
更には自分が物凄く「空っぽな人間」になった錯覚にさえ陥ってしまう。
高いところでポニーテールにした頭を左右に振れば、からんころんと音がしそうだ。
少し前までの事を ふと思い出すと「なぜ自分はあんなに固執していたのか?」と不思議になることさえある。
その感覚は、まるで “憑き物が落ちた” かのようだった。
「うん……。でも、すぐに慣れるんじゃないかな? ごめんね、変なこと言って。もう一回跳んでみる」
自分にそう言い聞かせて助走に入ろうとしたヴィヴィを、クリスがその腕を掴んで強引に己に引き寄せた。
「ぅわっ……!? ど、どした……?」
兄らしくない少々乱暴な引き寄せ方は、角度が違うと肩の筋を痛めそうだった。
冷静さを欠いたクリスらしくない振る舞いは、ぎゅうと力強く抱き込まれた胸の中でも感じていた。
何度か深く呼吸を繰り返した兄は、まるで「心底安心した」とでもいう風に、最後に深く深く妹を抱き締める。
「ヴィヴィ……」
「うん?」
「これから、うんと……、誰よりも「幸せ」になろうね……」
「……? ……う、うん。ありがとう?」
公私に渡り、長年自分を支え続けてくれた君の気持には、筆舌にしがたいくらい感謝しているよ、クリス君。
でもね……。
だが、なぜ “今” なのだい――?
氷上で熱く抱擁しあう双子 もとい 師弟に、リンクメイトが「何事か!?」と注目しているぞ?
「ていうか、クリスも、ね?」
今の自分が誰よりも「幸せ」になって欲しいと願う相手は、目の前の彼だ。
とても頼りがいがあるのに、どこか守ってあげたくなる、そんなちょっと不思議な自分の大事な人。