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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
兄の背をあやす様に、ぽんぽんと撫でながら続けたのに。
「……僕は、いいや……」
「……? え~~~!?」
(人には「幸せになれ」と言っておいて、自分は「いい」ってどういうことさ?)
いつも世界のど真ん中にいて、脚光を浴びている兄が口にした「世捨て人」みたいな返事に、
いつも兄の七光りみたいな妹は、至極不服そうに唇を尖らせる。
今一度、クリスの未来予想図を問い質したくなったヴィヴィだったが、
「ほら、ヴィヴィ……。無駄口を叩いてないで、今度は1回転トウループから試していって!」
いきなりジャンプコーチの仮面を被った兄に、妹はしぶしぶ「は~~~い」と答える。
「返事は短く「はい!」」
「は、はひぃっ!」
返事を噛んだヴィヴィは、鬼軍曹に敬礼すると、また助走へと滑り出したのだった。
それぞれ一介のスケーターに戻った双子は、各々のレッスンを全て終了して帰途に就いていた。
街灯がポツリポツリと点在する車道を、クリスの運転するレクサスF SPORTは危なげなく疾走していく。
「それで……?」
「ん?」
「それで……、フィリップとは、どう……?」
ステアリングを握るクリスの輪郭が、街頭に浮かび、消えて、浮かび、を繰り返していた。
「う~~~ん」
「………………?」
助手席のヴィヴィの視線が、兄からフロントウィンドウの先へと移ろう。
「どうなっているのか?」と尋ねられても、どうもなっていないというか。
そもそも、昔の男を色んな意味で吹っ切る為に利用したのが、フィリップという存在だった。
容姿も能力も地位も、匠海に劣らないスペックを持った男。
女慣れしていて、近くにいて、手っ取り早くて。
それでいて、互いの保身の為にも軽々しく二人の関係を口外しないであろう相手。
それがフィリップだった。