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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
そして兄と完全に切れた今、彼の “利用価値” は無いに等しい。
それどころか、このままではパパラッチに二人の関係を感づかれ、追い掛け回される日々になるだろう。
もしかしたらクリスは「五輪シーズンの今、それだけは避けた方がいい」と暗に言おうとしているのかも知れない。
そうじゃ無いかも知れないけれど。
ちらりと脳裏に横切るのは、端正すぎる男の顔。
たった1歩だけ、自分の中に踏み込むのを赦した相手。
今ここで、クリスの目の前で、フィリップに電話し「別れ」を告げたっていいのだ。
「…………。私ね、比べちゃうんじゃないかと思ったんだ」
「……うん……」
長い沈黙ののち、ぽつりと溢したヴィヴィの言葉にも、受け止めるクリスの声は傍観者のもの。
「それって、相手にとっても失礼だし、自分にも嘘を吐いているし」
「そうだね……」
右折しようとする車が、規則正しいウィンカー音を刻む。
それを左から右へ聞き流しながら、ヴィヴィが続ける。
「でも、なんだろう……? フィリップは違う、っていうか」
「…………?」
「ぶっちゃけ、比べるのも馬鹿らしいというか」
今彼に対して物凄く失礼な評価を述べる妹に、静かに耳を傾けていた兄から「……ふ……」と、珍しい苦笑が聞こえた。
そうなのだ。
切ろうと思えばいつだって切れたのだ、フィリップのことは。
クリスも。
自分も。
妹に言い寄る男を、兄は完全にシャットアウト出来た筈なのに、何故かいつのまにか「クリスの親友」として場所を勝ち取り。
一国の皇太子なのに、もはや空気の扱いを受けつつ、それでも絶好の機会をものにした、まるで「風来坊」のような彼。
そんな突き抜けたフィリップの個性に、実は双子はとても救われていたのかも知れない。
――若干、買いかぶりすぎている気もするが。