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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第2部
第20章
越えられない壁。
超えてはならなかった壁。
それを力ずくで叩き壊してしまった自分。
そして壁の向こう側へ引きずり込まれ、己を見失った兄。
人生が80年だとしてまだ1/4しか生きていない両者は、
これから残りの人生を懺悔と共に、苦役を果たさねばならないのだ。
和やかな宴も終盤に差し掛かった頃、手洗いの為に席を立ったヴィヴィは、同じくバンケットルームの外にいた双子の兄に気付いた。
「クリス」
「うん……?」
「私、二次会は遠慮する」
この後に行われる二次会の席に、双子はそれぞれ出席する予定だったが、妹のいきなりのキャンセルにも兄は当然の事のように頷いた。
「……分かった」
フォーマルスーツの胸ポケットからスマホを取り出したクリスは、こちらに背を向けるとすぐさま電話をかけた。
通話相手といくつか言葉を交わし、すぐに終わったらしい兄の背に、妹はまた迷惑を掛けていると居た堪れなくなる。
二次会の会場は、ここからタクシーでワンメーターの距離だった。
ヴィヴィが披露宴会場からすぐに立ち去れば、「妹が不在ならば」と二次会に参加するであろう長兄とのニアミスも防げるだろう。
「ごめんね、迷惑、かけて……」
見つめていた背中の肩口に額を預け、もう何度目になるかも数えきれない謝罪を繰り返す。
ごめんね。
ごめんね。
ごめんね。
その呪詛を吐きながら、私は死ぬまでにあと何回、クリスの善意に縋るのだろう。
その事でどれだけ、目の前の大事な兄を痛めつけるのだろう。
マスカラに縁どられた目蓋をぎゅっと閉じるも、帰って来た返事はいつもと同じ――では無かった。
「……こんなことくらい、なんてこと無い……。 “以前に比べれば” ね……」
「…………、そうだね……」
何度も犯した過ちを正し、やっと関係を清算した長兄と妹。
クリスが言外に滲ませた「今度こそは」という念押しを、ヴィヴィは息と共にぐっと飲み込み受け入れる。
そっと額を離した妹に、ゆっくりと振り向いた兄はその表情を一瞥し。
そして、細い掌を自分の腕に絡ませると、また賑やかなバンケットルームへと戻ったのだった。